第1話 才能

 世界が大きく変化を遂げてから30年。戦火に包まれたこの星も、今ではそんなのが嘘だったかのように平和な世界が広がっている。争いもたまに起こる程度。その争いもすぐに終わり、互いが協定を結んだりしている。


 そんな世界を作ったのは『連合軍』と呼ばれる組織。今では「天変の年」と呼ばれる戦争しか起こらなかったあの1年。その争いを止めた少年たちが中心となって作った組織だ。しかし、当時はたった8人しかいなかった。そんな彼らがどうやって世界の状況を変えたのか。それは彼らが持つ才能ギフトにある。


 才能。先天的に授かった、他の人とは明らかに異なる力であり、その能力は多岐に渡る。


才能者ギフテッドの剣の腕はそんなものか?」

「お前が望むなら、もっとギア上げてやるよ!」


少年たちが刃を交える。2人は目にもとまらぬ速さで剣を振り、立ち位置を変えながら、確実に隙をついていく。それを止め次の動きに繋げる。ギアと同じようにテンションも上がってきたのか、2人とも笑顔だ。


 才能の1つとして数えられるのは剣や銃など、武器を扱うのに長けた能力。これが一番オーソドックスな才能だ。この才能の力としては、その武器を扱うのが上手くなりやすくなったり、単純にその武器の性能を引き出したりすることができるもの。頭よりも感覚に寄っている能力だ。


 少年は一度距離を取り、そして姿を消す。これは才能ではなく単純な体術だ。しかし、これを迎える少年のほうはそうではない。才能には自身の身体的なものもある。聴力、視覚、第六感、身体強化など、身体に関することならなんでもありの能力。しかし、これをちゃんと使いこなせる人は少ない。なぜなら、使っているときと使っていないときの差が大きいからだ。常に使い続けることはできないこともないが、そう長くは持たない。だから、この才能を持つ人は使うときと使わないときを使い分けている。その使い分けと、感覚の整理ができないとこの才能は使えない。


「そこか!」


この少年の才能は聴力。周りの音やその反響、そして音の反射までも聞き取って、はるか先の敵の位置まで正確に探知する。戦闘だけでなく諜報にも向いている能力だ。


 突如として現れた刃を待ち構え、そして刃を交えた瞬間に少年をはじき返す。正確には吹き飛ばした。


 才能の最後の1つ。それは超常的な現象を引き起こすもの。今、少年が使ったのは重力の才能だ。こんな風に、人が引き起こすとは考えにくい現象を引き起こす。そんな才能がある。


 そして、それらの才能のどれか一つでも持つ人間を、人々は『才能者ギフテッド』と呼んでいる。


「殺す気か?マジで重力かけてくるとは思わなかったぞ。」

「この部屋なら死ぬことはないぞ。死ぬほど痛いけど。」


壁にぶつけられたのにピンピンしている少年は、剣を収めながらそう笑う。名前はロイス・アストラ。才能が全てであるこの世界に生まれた、何の才能もない人間。親から捨てられ、自分の腕だけでここまで生きてきた、連合軍の訓練生だ。歳は15。日々の努力ですべての武器を才能者と遜色なく扱えるオールラウンダーとなったが、彼のことを避ける人も多く、まだ訓練生である。


 そして、ロイスと刃を交えていた少年はコウガ・シナリウス。れっきとした才能者の1人。しかし、ただの才能者ではない。連合軍の大半を占める才能者も、そのほとんどが1つしか才能を持っていない。そんな中、彼は『剣』、『聴力』、『重力』の3つの才能を持っている。才能を3つ持っているのは、世界を見てもほんの一握りしかいない。幼いころからこの訓練所で剣を磨き、現在15歳。ロイスとは幼馴染で、訓練所の寮でも隣同士だ。


「死ななかったらいいんじゃないんだよ。痛いのが嫌なんだよ。」

「俺と訓練するってことはそれくらい織り込み済みのはずだろ?まあ、誰も相手になってくれないしな。」

「ないだけマシなのにな。」


訓練室は外に見える仕様になっているから、観覧している他の訓練生も見える。しかも、音も聞こえているから、全員が目を伏せたのが見える。2人は「はぁ……」とため息を1つ。


 2人はこの施設に入ってから、かれこれ8年経つ。ここにいるほぼ全員が2人の後輩にあたり、だからこそ声を掛けづらいというのはある。しかし、先輩として成長してほしいというのが本音だ。もうそろそろ自分が本部の部隊に入らないといけないというのが分かっている。実際にスカウトも来ているし、ずっとそれを断り続けているからこそ、「もうそろそろ」という意識が出てきている。


「さてと、続きしようぜ、コウ。」

「だな、ロス。」


もう一度ちゃんと距離をとって、剣を抜く。


 ロイスがわざわざコウガの得意な剣で戦っているのは、本人曰く「そうじゃないとちゃんと実力が分からない」とのことだ。ロイスは才能がない。そのことは他の人から舐められてしまう要素にもなることで、実際に連合軍に来たのはそれが理由だ。だから、自分の腕だけを信じて、全ての武器の腕を磨いてきた。だから、「才能がある」コウガと戦って、自分のレベルを見定めている。


「来いよ。」

「この時間が一番嫌なんだよな。ロスって妙な圧あるから。」


2人は一つ大きく息を吐いて、剣を握りなおす。その角度一つ一つでお互いがどんな攻撃をするのか読めているから、ゆっくりと時間が経っていく。


 足に力が入って、地面を強く踏みしめる。その瞬間、2人の距離はゼロになり、高い金属音が鳴り響いた。

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