第7話 モクモク観察

 お昼休み。


「あっ、見て。飛行機雲!」

「はあ」

「ちょっと、もっと乗っかりなさいよ。カップルに見えないじゃない」 


 そんなこと言われても。


「じゃあもう一度。あっ、見て。飛行機雲!」


 すごい演技くさい。

 

 今は僕と先輩で、中庭にいる。

 中庭のベンチに座って雲を見ている。

 絶賛周りに恋人アピール中。

 

 僕たちは偽装だから一緒にいるワケだけど。

 

 その、近い。

 肩が完全にくっついている。

 通常あるはずの隙間がなくて、おかげでベンチがすごい余っている。


「近すぎじゃ……」


 これだと緊張するんだけど。


「なに言ってるのよ。これくらいやらないとカップルに見えないでしょう。たしかにまだあなたには難しいかもだけど。でも頑張って。ほらっ、表情が硬いからもっと柔らかく」

 

 誰のせいだ。

 横を向いたら、すぐそこに先輩の顔があって、たたでさえ体温を感じている。

 こんなの緊張するなって言う方が無理がある。

 

「どうしても落ち着かないなら、雲に集中しなさい。わたしのことは一旦忘れて、面白い雲を探すことに徹するの」

 

 無理。

 それができるなら苦労はしない。


「そうね。ほらっ、例えばあれとか。何に見える?」


 先輩の指す先にある雲。


「う~ん、ネコ?」 

「そうかしら? どう見てもタヌキだけど。尻尾の部分とか」


 あれ尻尾なんだ。

 僕には足に見える。


「なら次はあれ」

「えっと、コッペパン」

「違うわ。どう見てもUFOじゃない。あの膨らんだ形とか」

 

 いや、どう見てもコッペパン。

 この人はなんでそう見えるんだろう。


「あれはどうかしら」

「モコモコしてるから、わたあめ」

「いいえ、惑星よ。あれは?」 

「輪っかがあるから、ドーナッツ」

「銀河系……あなた、ひょっとしてお腹減ってる? さっき食べたばかりじゃない」

 

 見えるから答えているんだけど。


「先輩だって偏ってる。分かりにくいのばっかり」

「なによ。わたしの目にケチつけようって言うの」

「そういうワケじゃ……」


 三年生って怖い。


「はあ、感性が違い過ぎね。こんな調子でやっていけるのかしら、わたしたち」


 カップル関係あるのかな、これ。


「訓練が必要ね。思考の共鳴力。この先きっと重要になってくるだろうから」


 ないと思うけど。

 それっぽいこと言えば良いと思ってない?


「もっとこう、目で直接見るんじゃなくて心で見なさい。そうすればわたしと同じ世界が見えてくるはずだから」

 

 普通に見たくない。

 

「先輩が僕に合わせれば」

「そうね。もう少し簡単なヤツにしましょうか。ちょっと練習。あれなんてどうかしら。わたしはハートに見えるけど」

 

 ハート雲?

 特に見当たらないけど。

 どれのことを言っているんだろう。


「ほら、あれよ。右にあるヤツ」

 

 どれだろう。

 ハートだから分かりやすいはずなのに。

 簡単すぎて逆に難しくなっているのかな。


「早くしないと形が変わって……もう、ちょっと顔を借しなさい」 


 あっ、先輩。

 急に肩を掴んで、引き寄せてきた。


「ほらっ、あれよ。見えてる? ハートの形になってるでしょう」


 たしかにハートだ。


 でもそれよりも、先輩の頬が、当たりそうなくらい真横に、

 

「ハートの雲だなんて、結構縁起が良いんじゃない? 案外やっていけるかも、わたしたち」


 声が透き通って、

 

 先輩、いつまでこうやって、


「あっ、ごめんなさい。苦しかった?」


 はあ、違う意味で苦しかった。

 もう心臓が止まるかと。

 急にやってくるから身が持たない。

 

「どう、少しは慣れてきた?」

「えっ?」

「この状況よ。ずっとくっついていたでしょう」

 

 慣れたか、だって。

 そんなの、

 

「いや、まったく」 

「そう。たしかにあなた、暖かいものね」


 

 じゃあ離れてよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る