第54話 his girl part(3)

 しかし、意味不明なのは早坂が着物を脱ぎ始めたことだ。


 山田と河北はしばし思考の大部分を(?)で埋め尽くされる目に遭った。


 だが数秒後に待ち受けていたのは、早坂が着物の下に着ていた、平成女子顔負けの短すぎるミニスカートと、ややダサいライムグリーンのシャツとの対面だった。



「お前らに、このコスチュームを披露するのは……初めてだったっけか……」



 山田と河北は、まるで意味が分からなかった。さっき、早坂は『俺がオトリになる』と言ったハズ。


 山田たちは『あれ? 俺がオトリになるって言ってたよね』『もしかして俺が女になるの聞き間違いだったのか』と悩む羽目に。


 そうこうしているうちに、早坂の衣装チェンジが完了。


 そこにいたのは、男、早坂ではなかった―――平成という激動の時代を生き抜いてきた、いとおかしな女子そのものであった。塗りすぎた口紅は、ほとんど平安時代の歌人に等しい。


 それを見た河北がひとこと。



「wow……that is his girl part……」



 早坂はこんな重要な場面で、自身が内側にしたためていた『可愛い部分とそうなりたい欲求』をリリース。


 彼いわく、あくまで、あくまでも作戦のためにこの格好になったらしい。


 山田と河北は『なぜコイツは着物の内に平成女子のファッションを?』と疑問に思ったが、今は早坂の女装の意味(もしかすると、普段から着ていたのか)ということを探るには時間がなさすぎる。賢明な二人はすぐさま思考をシフトさせた。


 ついに集った三人の思考。一時はバラバラになりかけた彼らの意識が、空中飛行を経て集結し、成瀬のもとへ向かう。



「いいか? 俺があの運転手のおっさんをエッチなポーズで引きつける。天才の俺だからこそ思いついた作戦だ―――まず『なんて可愛い子なんだ』で思考をあらかた奪い、追撃として『ターミナルになぜ子どもが』『その平成女子ファッションはどこで揃えた』という考えで、ドライバーの脳みそを上書きしちまうって寸法だ」



 早坂はそう言うと、勢いをつけてコンテナを飛び出した。目当てのトラックまで、距離が10メートルはある。一体どうするつもり―――



「あぁんっ♡」



 飛び出した早坂(平成女子バージョン)は、置いてあった資材に足をつんのめらせて転んだ。そのまま、ずざざぁという音を立てながら平成女子は転がっていく。



(あああ早坂ぁぁ!)


(何してんだアイツ)


(河北、でも今がチャンスかもしれない。早坂ちゃんが作ってくれた時間を無駄にできない)


(そうだな……今のうちに……いや、ちょっと待て山田。早坂ちゃんたちの方に動きがあったみたいだ)

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