第39話 僕(2)

 大みそか。


 家族で楽しく飲み食いをしていると、あっという間に夜は更けた。


 甘衣あまいさんは、喫茶店で無理してブラックコーヒーを飲む僕に『初日の出を見に行くことは、他の人に言っちゃ駄目だよ』と、微笑みながら言った。うきうきが止まらなかった僕は、両親に報告したかったけれどやめた。


 始発電車が動き出す朝5時。


 僕と甘衣あまいさんは、静まり返る駅の前で『寒いね』と話した。


 今年の10月に初めて会った隣の席の子―――それも女子と、こんなに仲良くなれるなんて思わなかった。まして、二人きりで初日の出へ行くなんて、考えもしなかったことだ。


 映画館でしていたものと同じ手袋を着けた甘衣あまいさんは、白い息を吐きながら『駅で、何か買って行こうよ』と笑った。なんだか、いつもよりも彼女が大人っぽく見えた。


 何日も会っていなかったとか、そういう訳じゃない。なので、そんなことはあり得ないのだが―――どうしてか僕には、甘衣あまいさんがひどく大人びて見えたのだ。


 僕らは駅構内のコンビニでいくつか食べ物を買って、僕は温かいココア、甘衣あまいさんも『わたしもそれにしよ』と言って同じものを購入していた。


 電車の中には、誰もいなかった。四両編成に、僕と彼女が二人だけ。隣の席に座る甘衣あまいさんは、いつもと同じ甘い香りをまとっているし、話す俗っぽい話題もいつも通り。


 周囲のスケールが『教室』から『始発の電車』に変わるだけで、僕らはひどく大人になった気がした。


 がたん―――ごとんと揺れる電車。乗ったのはいつぶりだろうか。


 少なくとも、ここ一年は乗っていない―――はずだ。


 寒さのせいで冷やされた頭が、電車内に漂う熱いくらいのヒーター温度によって、ぐらぐら揺さぶられる感じがする。そのせいで、うまく頭が働かない。



 ―――ここ何日かの間に、甘衣さんのことを考えた。


 難しい思考を経なくても、自分の心と対話なんてしなくても、僕は彼女を好きだと思った。それを伝えてみたいとも思った。


 ―――それを伝えるべき日は、今日だとも思った。

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