第34話 きみが甘いわけ(4)
意味不明な作戦を強行したのには、理由がある。
もちろん、もしかすると
しかし、
根拠は無い。無いのだが―――不思議とそう感じた。
***
僕は、
人目につかない場所へ、今度は僕の方が彼女の手を引く。
今度は、明確な根拠のもとで僕は行動している。
その理由は、
シアターの外へ出て、照明によって照らされた彼女の表情は、明るかった。けれど、どうしようもなくその大きな目は泣き腫れていたのであった。
彼女の顔を見た僕は、目を飛び出んばかりの勢いで
「うぁ、うぁまいさん!? ど、どうしたのさ。こ、怖かった? 怖すぎたかあの映画。そうだよね僕も……」
僕の悪いところだ。うっかり捲し立ててしまうこの癖は、直した方が良いと誰かに言われたことがある。
焦る僕を見て『へ?』と首を傾げたあとで、自身の目元を取り急ぎぺたぺたと触る
「ふぇ!? う、嘘っ―――目ぇ腫れてる? ももも、もしかして、赤くなってる?」
「嘘吐いても仕方ないから正直に言うと……おっきな目が真っ赤に」
僕の言葉を聞いた
「―――ごめん。せっかくの映画なのに……」
どういう訳があって涙を流していたのかは、分からない。けれどそれを聞くのは無粋だし、なにより甘衣さんが実際に涙を零していたことが分かったのだ。外へ連れ出して正解だった。
理由は分からないが、悲しそうな表情の
―――何だか、過去にも感じたことがあるような、そんな懐かしい痛みだ。だが、僕が今やるべきことは、遠い昔に経験したかもしれぬ胸の痛みに―――その感傷に浸ってセンチメンタルな気分になることじゃない。
目の前で、何らかの理由で涙を流した
「いや、僕もあの映画怖くてさ―――あのまま放っておくと、チ……チビる危険があったものなので、丁度良かったというか―――いやその言い方はおかしいかごめん……」
「ふっ……な、何それ」
「
「そっか、良かったよ」
「なんか、ごめんね? 映画の途中だったのに……」
「いいんだ。僕もチビりそうだったから」
あまりネタを擦るのはやめた方がいいだろうが、素人の僕にはそんな考えはない。なので、何度でも『チビる』を使用する。
「ま、また……それやめてって。こんなとこで大笑いしたら、わたしの声響いちゃうでしょ?
どうやら短い付き合いの中で、僕の『ネタを擦りがち』という特性にさえ気づいているらしい。恐るべし、
―――ん? 今何て……?
彼女は、今僕のことを、何て呼んだ?
栗色の髪の毛をイジるクラスの隣人は『ほら、チビる前に行っておいでよ……ぷふっ……』と一人でにやにやしている。元気になってくれたのは、本当に良かった。良かったのだが……
今、僕は『成瀬』ではなく『楓くん』と呼ばれたような。
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