第23話 映画館でも、とろけるほど甘い(1)

 今日は、12月27日。


 冬休みに入って三日目の僕は、街で一番大きな映画館の入っている遊園地にいる。


 先日、早坂はやさかたちに誘われ、映画を見に行くこととなった件がらみだ。


 甘衣あまいさんが風邪をひいてしまった時はどうなることかと思ったが、幸いなことに彼女の寛解は早かった。


 僕は、あんまりにも早く甘衣あまいさんの風邪が治ったもんだから不思議で、何か特別な栄養ドリンクでも飲んだの? と聞いた。


 にやりと笑った甘衣あまいさんいわく『成瀬なるせが、配布プリントと一緒に抗体運んできてくれたおかげだね』ということらしい。僕は、甘衣あまいさんの獲得免疫か何かなのだろうか。


 甘衣あまいさんの免疫として活躍できるなら、それもちょっと素敵かもしれない、とつい思ってしまったが、この思考回路は何かヤバいと気づく。


 すぐに脳みそを左右にシェイクし、無理やり『甘衣あまい&免疫めんえき成瀬なるせ』という気持ち悪いカップリング妄想を頭から飛ばした。


 薄暗い映画館の入り口付近でそんな行動を取ったため、横にいるメガネが似合う物静かな山田から『成瀬なるせ君、どうした? 急に狂ったのかい?』と聞かれてしまった。別に狂ってはいないが、日々、僕にだけ甘い甘衣あまいさんにペースを狂わされてはいることは確かだ。


 ……今回、女子4人、男子4人というお初のメンツで集まることになった時は、わりかし緊張した。多分、プリクラを撮ったりなんたりという、青春チックなことをするのだろうが、僕にはそのようなキラキラした経験はあまりない。


 情けないことだが、巨大な映画館のサービスカウンターにある『ポップコーン M size ¥900』という法外な価格の炒りとうもろこしへ恐れをなすことしかできない僕なのであった。





***





「楽しみだね〜甘衣あまいちゃん」


「だね〜っ! ホラー映画って、わたしあんまり見たことないんだよね。楽しみ」


甘衣あまいちゃんは、映画とか結構見るタイプ?」


「んや〜。一年に何回かしか見ないレベルだ……だから今日楽しみにしてたの〜」



 甘衣あまいさんと、女子たちが仲良く話している。そ、そういえば、今日はまだ甘衣あまいさんとほとんど話せてないぞ。グループで遊ぶと、こういう弊害があるのか。


 でも、彼女たちの会話へわざわざ割って入れるほど、僕の心臓は強くない。ここは大人しく、シケた面の男子どうしで会話に花を咲かせておこう。


 ニット帽を被って洒落込み、ポケットに両手を突っ込んで歩くスカした早坂はやさかに目線だけを向ける。



「ねえ早坂はやさか。君のチョイスだよね、あのホラー映画」


「んあ? ああそうだよ。俺の兄ちゃんが、好きな人と見に行ったらしくてな……そうそう、この話はお前にしてなかったよな?」


「へえ。早坂はやさかのお兄さんは早坂似で度胸があるね……うん、聞いてないと思う」



 僕の返答を聞くと、早坂はやさかはにやりと笑った。



「どうやら……俺たちが今から見る映画、めちゃくちゃな怖さらしいんだよ」



 早坂はやさかは、彼の兄が好きな人を誘ってこのホラー映画を鑑賞しに行ったこと、好きな人はあまりの怖さから、鑑賞中に早坂はやさか兄の手を握ったこと、そして色々あって良い雰囲気になり、少し経って付き合ったことを一気に話した。



「つまり、今日この映画館を出る時にはだ。俺たちの誰かと、女子たちの誰かの関係が変化している可能性があるんだよ」


早坂はやさか、もしかして君はそれ狙いで映画館へ遊びに行こうと、女子たちを誘ったのかい?」


「正解だ。ちなみに、映画館内でのシート席順は、男女ごちゃ混ぜになっている……が、もちろん俺は細工をする。当然、俺は細工をする」



 そんな澄んだ瞳で言うことじゃないよ、早坂はやさか

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