第22話 きみが甘いわけ(1)

「ばいばぁーい! なるせ、また来てね〜」


「今度の映画、楽しみにしてるぜ成瀬なるせ〜!」



 僕は、配布プリントと通知表を甘衣あまいさんに渡すミッションを終え、帰路につくことにした。


 甘衣あまいさん家の庭は綺麗だ。


 二台分の車が余裕で入るガレージの隣に、大きな家庭菜園スペースがある。そこで色とりどりの花がにこにこ笑っているのも魅力的だ。しかし、最も目を引くのは庭の隅にあるイロハモミジの木だろう。


 一般的な家の庭に、モミジが植えてあることはアンマリ多いケースではない、と勝手に断定していた僕。


 帰り際に小さめのそれをじっくり見てみた。


 これが庭にあるなら、毎日窓辺は賑やかになるだろうなと思う。今日はどれくらい色づいたかな? とか話している家族の風景が、頭に浮かぶ。


 誰のチョイスで、植えられたものなのだろう。まだ若そうなこのモミジの見た目からして、植えられたのは古くなさそうだ。なら、幼い甘衣あまいさんが『これ買って!』と駄々をこねたりなんかしたのだろうか。


 おかしな想像を膨らませたところで、ちょっとだけ頬が緩んでいることに気づき、そろそろ帰らなきゃと思いいたる。


 明日の終業式を終えれば、明後日からは冬休みだ。宿題もたんまり出たけど、もし行き詰まったら、甘衣あまいさんの知能の高さに甘えよう。


 モミジを見つめてから、広い甘衣あまいさん家の庭から出るべく歩き始めようとした、その時だった。



「……これ、なんだろう」



 モミジの木の根本。そこに、小さな札のようなものが立っている。まだ立てられて新しいそれには『2024 10』と書かれている……これは、お墓だろうか。


 人の家の事情に土足で踏み込むのは、良くないことだ。なので、一度目にしたそのお墓のようなものを頭から取り払って、足早に甘衣さん家をあとにした。


 すっかり暗くなった帰り道。そこを歩きながら、やっぱりさっきのお墓が気になる。


 『2024』というのが西暦のことを指しているなら、去年のことだ。隣に書いてあった『10』も月を表している可能性が高いだろう。


 何となく、僕のなかで何かが引っかかる。でも、考えてもその正体に気づくことはできそうもなかった。



「……何か、忘れているような気がするんだよな」



 僕は、いつものように自宅の玄関をくぐる。


 喫茶店みたいな『カランコロン』という鈴の音が響いた。


 鞄などを下ろして、着ていたダウンを脱ぐ。


 そうして、ひと息ついてから後頭部のかさぶたに触れた。

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