第19話 風邪をひいたって甘衣さんは、甘い(4)

 まあ、見せてくれないのは仕方ない。成績を見られたくない人も多いだろう。甘衣あまいさんとそれなりに仲良くなった、と勘違いした僕の見立てが甘かった。お恥ずかしい。



「ちなみに、成績は数学以外5だったよ」


「お、教えてくれるの……って、え!? ほぼ全部5じゃん!?」


「ふふん、凄い? 褒めてよ? もっと」


「い、いや凄い。驚いたなぁ甘衣あまいさんがそんなに勉強のできる子だったなんて……へぇそうなのか……す、凄いや」


「そ、そんなに目を見て褒めないで……」



 しまった。またも変態みたいな行動をとってしまった。


 みろ甘衣あまいさんが怒りで頭から蒸気を噴いている……


 そんな僕たちのようすを見ていた澄乃すのちゃんが、甘衣あまいさんを見つめて言った。



「おねえちゃんは、頑張ったあとはいつもおかあさんから頭を撫でられます。ね?」


「!?」


「!?」



 突然の情報提供だ。しかし、それを僕に言ってどうする? 澄乃すのちゃんよ。


 そして、どうしてそれを聞いた甘衣あまいさんは僕を見つめてくるんだ。しかも物欲しそうな顔で、唇をつぐんでいる。それは何の顔なの?


 僕らは、目を合わせたまましばしフリーズした。


 ……そのアイスブレイクを施したのは、やっぱり甘衣あまいさんだった。



「……いいけど」


「!?」


「……なでてくれても、いいけど」



 どうしちまったんだ。どうしちまったんだ甘衣さん。君はそんな感じじゃないだろう。


 いつもは、そんな感じじゃないだろう。どうして目を瞑ってるんだ。キス? キスをご所望か? いやそんなワケないか。



「ほら、なるせ。おねえちゃんがログアウトしちゃうよ」


「な、なに? なにを言っているのっ?」



 もう僕には何がなんだか分かりゃしない。普通、この場合は甘衣あまいさんが『ごめんね〜。わたしの妹が変なこと言って』と、軽く流すのが正解なのでは?


 栗色の髪の毛を垂らして、僕を見つめてくる彼女はどういうつもりなんだろう。


 しかし澄乃すのちゃんによれば、このまま甘衣あまいさんを放置していると、いずれログアウトしてしまう(?)という。


 僕はこの先も甘衣あまいさんと毎日ログインボーナスを受け取り続けたい。なので、ここは流れに身を任すしかないのかもしれない。


 

 ええい僕は男だ! うじうじするのは、男らしくない!



「じゃ、じゃあよしよしするよ? 甘衣あまいさ……」



 何を言ってんだ? よしよしって何だ? 僕のなかで、撫でることはすなわちよしよしなのか?


 僕は、ずいぶん気が動転しているようだ。

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