第1章 どんな時でも甘い、甘衣さん

第01話 机の下は、甘い

 甘衣あまいさんは変だ。


 給食の待ち時間というごく短い時間でさえも、僕にいたずらを仕掛けてくる。





 僕たちのクラスでは、給食時間には机と机をくっつけて、五人ほどのグループを作る。


 担任の先生が『仲を深めるため』と言って、僕の転入初週限定で始めたものだったが、いつの間にか習慣化してしまった。


 クラスメイトたちとの仲は、すっかり良好だ。転入してきたばかりの僕にも、みんな優しくしてくれる。なので、すぐに教室へ馴染むことができた。



「うりゃっ」


 

 もちろん、左隣の甘衣あまいさんとの関係も良好……のはずなのだが。


 そんな僕は、今まさに甘衣あまいさんからいたずらを受けている最中だ。


 机どうしを向かい合わせると、僕と隣どうしで座る甘衣あまいさんの座席は必然的に対面になる。そこに彼女は目を付けたらしい。



「楽しみだね〜っ! 今日の給食は、冷凍みかんがあるらしいよっ」


凪乃なのみかん好きだもんねぇ。さすが目がないなぁ……」


 

 甘衣あまいさんは、彼女から見て左隣……僕からは右斜め前に当たる女子と、楽しそうに話している。

 

 彼女はみかんハンターなのか。初めて知った。


 しかし、その甘衣あまいさんは楽しそうに話すその裏……机の下で……


 僕の右足をこつんこつんと軽く、その細い足で小突いて来るのだ。


 どういう意図なのかは分からないが、彼女はクラスメイトにバレないように僕へいたずらを仕掛ける。


 こうしたいたずらは、僕がこの学校へ転入してきて、彼女と知り合って、約二週間が経ってから始まった。


 僕は不思議で、その度に『甘衣さん?』『ど、どうしたの?』と尋ねた。


 しかし、栗色の長い髪の毛をなびかせる彼女は、一向にその理由を説明しようとしない。


 小首をこてんと傾けてから『何でもなーいっ』と、僕を見てくすくすと笑う。


 どんなときでも桃色に色づいているその頬は、クラス中の視線を集めている。そのことに鈍感な僕が気づくまで、あまり時間はかからなかった。


 だからこそ、思うのだ。


 どうして僕にかまってくれるのだろうか、と。


 はじめは、転入したてで友達のいない僕のことを気にかけてくれた結果が、このいたずらなのだと思っていた。しかし、あれから時間は流れて僕にも気の置けない友人ができた。


 仮に、僕の推測が正しいとする。

 

 甘衣あまいさんの仕掛ける僕へのいたずらが、一人きりで給食を食べる転入生のため、慈悲のもとで為されていたのだと考えてみる。


 それなら、すっかり友人に恵まれた僕に対する救いの役目は、既に不必要であると言うべきだろう。


 しかし、今日だって相変わらず、彼女は僕の足をこつんと小突くのだ。それが、どういう理由のもと為されているのかは分からない。


 でも……



「ねぇ。成瀬なるせ? わたしと勝負して、もしこっちが勝ったら言うこと聞いてよ」


「え? うん……いいよ」


「ふふっ、やった。じゃあ、わたしが勝ったら、みかん頂戴ね?」


 

 そう言って目尻を細める彼女は、相変わらず僕の膝小僧をこつんこつん蹴りつけてくる。


 でも、そんなふうに微笑む甘衣あまいさんの隣にいれるのは……


 二人だけのちょっと不思議な秘密があるのは、意外と悪くないかもしれないと思った。






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