03.コミュ強

 雅楽川先生を廊下に残し、わざとドアを開けたまま教室に入る。

 ドアを開けると、ほとんどの生徒が僕に気がついて教卓に着くまでに静かになる。改めて本当に偉い。

「おはようございます。突然ですが今日からこのクラスに二週間、教育実習生の方が来てくれました」

 学校生活においてトップクラスにわくわくするイベントに教室は少しザワつく。

「どうぞ、お入りください」

「はい!」

 ドアの方に向けてそう声をかけると、雅楽川先生が元気に返事をして入ってきた。邪魔になるといけないので少し横にはけてロッカーの前に立つ。

 みんな雅楽川先生の方に注目して、「イケメン」「かっこいい」と本音が漏れている子もいる。

 黒板の前に立つと、チョークを持って大きな声でこう言った。

「問題です!」

 チョークで黒板に自分の名前を書き始めて、やっと問題の意味を理解する。

 生徒達は先生の背中で見えないのか、怪訝な顔で黒板を見つめていた。

 書き終わった先生はチョークを置き、名前の隣に立った。

「俺の名前はなんと読むでしょうか!」

 印象に残るいい自己紹介に感心しつつ、生徒の方に目を向ける。

「まさらくがわ?」

「みやびじゃないの?」

「ガじゃね?」

 まさかと読むとは思わずに数十分前の僕と同じ反応をする。

 そんな生徒たちを見て楽しそうに笑った先生は再びチョークを持ちさっとふりがなを振った。

「正解はうたがわでした!雅な楽しい川と書いて雅楽川 交です、よろしくお願いします!」

 そう挨拶をして、ぺこりと頭を下げると、よろしくお願いしますとバラバラに返ってきた。

 (すごい、親しみやすさ満点だな…。僕の時はめちゃくちゃだったもんな…)

 僕の実習時の自己紹介は緊張しすぎで、滑舌と文章が終了していた覚えがある。

 (思い出したくもない…)

 思い出すだけで恥ずかしくて耐えられない。

「真飛斗先生、以上です」

 我に返ると先生が俺の方を見て次の言葉を待っていた。

「はいっ先生ありがとうございました。では皆さんぜひ沢山仲良くして思い出を作ってくださいね。じゃあこの後体育なので、終わります」

 解散の声をかけると、コミュ強の子たちは早速雅楽川先生を囲み始める。

 予想通りの人気ぶりを微笑ましく思いつつ、そっと後ろの扉から教室を出る。

「あ、真飛斗先生!…って、この後体育なんじゃないの?遅れちゃうよ?」

「着替えんだから女子早く出てけよ!」

「うるさいなぁせっかち!」

 今日も平和なクラスを背に感じながら、階段を降りる。

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