民俗学の緻密な観察眼で、沈黙する土地と人々の記憶を紡ぐ文学
- ★★★ Excellent!!!
この作品は、民俗学を基盤とした緻密な描写と、地方の祭りや伝承への深い考察が光る。棚田を主人公とする調査プロセスは、学術的な真摯さと人間ドラマが見事に融合し、重厚な文学性を帯びている。
ただ、ミステリーとしての要素は、護田満夫の死因を巡る状況などに仄めかされるものの、推理や事件解決よりも、民俗学的考察や人間関係の深化に重点が置かれている。
全体として、民俗学への敬意と筆致の確かさは高く評価できる。私のように祭りや伝承への知識が乏しい読者には、展開についていきにくい面も感じられた。それでも、描写の丁寧さと登場人物たちの生き様は、強い印象を残す作品である。