第4話


 蛸子は、担架のようなものに乗せられ一回り小さい水槽に入れられた。


 …それからの記憶は、寝てしまったので分からない。


 気づくと、蛸子は海にいたのだ。

 

「あれ…何してたんだっけ。

 夢でも見てたのかな…?」


 目覚めた時は、そう思っていた。

 しかし、手元にタブレットを見つけて、蛸子は今までの出来事が夢でないと悟った。


「あ、渡里…」


 蛸子の脳裏には、砂に落ちたシーグラスが焼き付いていた。


 あれも夢ではないのか。

 もう渡里には会えないのか…。









 蛸子は、タブレットを見ながら海底を歩いていた。


 …コレ、人間がくれたヤツだよな。

 …こんなの渡されても、どう活用しろと。


 タブレットの文字は、最初に手に取った時と違い、馴染みのある文字で書かれていた。


 海洋語対応とは素晴らしい。

 きっと、人間が設定してくれたのだろう。


 蛸子は〈マップ〉と書かれたマークをタップした。

 画面に地図が表示される。


「あ、コレ…上から見た地面じゃん」


 海面近くから見た海底は、画面の地図と一致していた。

 蛸子はなんとなく、地図の使い方がわかったようだ。


ピコンッ


 タブレットが変な音で鳴った。

 蛸子が画面を見ると…何やらバツ印が地図に現れているではないか。


「もしかしてヤツがここにいるのか?」


 タブレットを渡してきた人間がそんな事を言っていたような気がする。

 蛸子は行ってみることにした。




 …。

 地図上での岩場の位置と、蛸子から見える実際の岩場の位置を比べながら、あのバツ印へ向かった。


 良く見ると、バツ印は動いている。

 なんとか追いつかなくては。


「もう少しで追いつく…」


 蛸子がそう思った時、ふと左手側をみると村があった。


 サンゴに囲まれて人間の通る海面からはよく見えない場所だった。


 蛸子は、バツ印を追いかけるのをやめた。

 …誰かいるかも。


 蛸子は、進行方向を左に30°変え、村の方へ向かった。




 蛸子には今、泊まる場所がなかった。

 もしかしたら、この村で泊まらせてくれるかもしれない。


















「誰かいませんか?」


 蛸子は村に着くなり呼びかけた。


 サンゴ屋根の家から、住人らしき人が顔を出す。

 蛸子はやや警戒されているようだ。


「実は、今晩泊めていただきたいのですが…」


 蛸子も、住人からの警戒の視線に気づいた。

 ここの住人は、よそ者をあまり好まないらしい。


 蛸子は困った表情で村を見まわした。


「誰だ」


 蛸子は振り返った。

 声の主は、白髪の人だった。


「ここからは少し遠いですが、隣の集落から来ました。

 怪しい者ではないです。

 ただ、集落が襲われて、今日泊まる場所を探していまして…」


 白髪の人は、表情を変えた。


「おう、そうだったのか。

 それは悪かったな…」


 その人は、あたりを見回すと、

「大丈夫だ、皆んな。

 こいつも俺たちと同じ仲間だ!」

 …と言った。


 「ちょっと来い」


 蛸子は白髪の人に手を引かれてサンゴ屋根の家に連れて行かれた。


「俺はコウっていうんだ。

 よろしく」


 コウは礼儀正しく蛸子に頭を下げる。


「私、蛸子って言います。

 こちらこそ、よろしくお願いします」


 蛸子も、コウにお辞儀した。


 よく見るとコウの白い髪は、ところどころ茶や黄色に変わっていた。

 蛸子が擬態のために長い髪の色を変えるように、コウの髪色も変えられるのかもしれない。


 コウは、蛸子を岩製の椅子に座らせると、話し始めた。


「実は、この村の者は皆、逃げてきた人なんだ。

 ニンゲンというヤツを皆憎んでいる。」


 コウは、小さな部屋の壁に立てかけられちゃ棒を見た。

 棒の先には、魔石と尖ったガラスがってられていた…槍だ。


「初対面でこんな事を言うのもあれなんだが…

 君、この村に住まないか?

 村を守るために闘ってくれないか?

 俺は、あの槍で近づいてきたニンゲンを追い払っているんだが…やはり一人だと心細い。」


 蛸子は目を丸くした。

 蛸子は、ここに住んでいいのか。


「あの、いいんですか?

 私よそ者ですけど」

 

「ここにいる人は皆んなよそ者だった者だ」

 

 蛸子は髪の毛を真っ赤にして喜んだ。


ピコンッ


「何の音だ?」


 コウは言った。


「タブレットの音です…。

 あ、ニンゲン…」


 蛸子が画面を見ると、この村のある場所のすぐ近くにバツ印が来ていた。


 ヤバイ。

 どうにかしないと。


「君、顔も髪も真っ白だぞ。

 ニンゲンがどうしたんだ!」


 蛸子は、槍とコウを掴んで外へ飛び出した。

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蛸の人の亜人研究 グルタミンちゃん @Glutamic_acid

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