第13話 穏やかな日々が壊れるとき④


 フォレストウルフの群れに突っ込んでゆくビンダッタたち。

 盗賊に飛びかかってゆくフォレストウルフの群れ。


 初撃を放ったのはビンダッタだった。


「うらあああああっっ!!」


 両手斧のすさまじい一撃でオオカミの顔面を叩き割る。


(ひょっとしてビンダッタのレベルは18以上なのか?!)


 予想外の一撃に、背筋が寒くなる。

 今まで俺は奴が全力で戦ってるところを見たことがなかった。


 ––––もし奴がフォレストウルフよりレベルが高かったら?


 だが、そんな思考は一瞬で吹き飛んだ。


「っ!!」


 突然左手から姿を現した二匹の大オオカミ。


 音もなく戦場に侵入してきたそいつらは、盗賊たたちを無視し、一直線に俺めがけて走り始めたのだ。




「くそっ! やられてたまるかよ!!」


 立ち止まっていたら嬲り殺される。

 俺は毒づき、右手のびんを握りしめると魔物に向かい地面を蹴った。


 一瞬の攻防。


 ガァアアアアッ!!!!


 先頭の一匹が大口を開け飛びかかってくる。


「っ!」


 体の軸をずらし、接触寸前で長大なオオカミの牙を躱す。


 そしてその顔面に右手のびんを叩きつけた。


 バシャッ!


 スライムびんが炸裂し、獣の頭部をスライムが包む。


 ゴポッ ゴポゴポッ!

 バタバタバタバタッ!!


 地面に転がり、狂ったように暴れる魔物。

 だがそいつに構っている余裕はない。


 グルルッ––––ガァアッ!!


 二匹目が目の前に迫っていたから。




「くっ……!」


 どうする?

 体勢が崩れかけてる。


 スライムびんは顔に命中させなきゃ効果が薄い。

 こっから当てられるかは、微妙。


 脅しでもいい。

 何かないか?!


「––––っ」


 脳裏に浮かぶ選択肢。

 その中から俺が選び取ったのは––––


「火炎びんっ!!」


 叫んだ瞬間、煌々と赤く輝くびんが右手に現れる。


「くらえっっ!!!!」


 手の中に現れたそのびんを、俺は迷いなくオオカミの足元に投げつけた。


 ゴオッッッ!!


 立ち上る火柱。


 キャインッ!!


 火を恐れ、とっさに飛び退くオオカミ。

 その間に俺は––––


「『スライム』!!」


 スライムびんを召喚し、体勢を立て直す。

 そして、火柱に飛び込んでいった。


 炎の向こうにチラつく魔物の姿。

 燃えるもののない地面から立ち昇っていた火柱が、消える。


 炎の中から現れた俺を見てギョッとする大オオカミ。

 だが––––


「遅ぇっ!!」


 熱気の残る地面を踏み、目の前のオオカミの鼻面にびんを叩きつける。


 バッシャア!!


 ゴポゴポゴポゴポッ!!


 窒息と激痛でパニックになり転げ回る魔物。


 ––––二匹目、制圧完了。




「はぁっ、はぁっ……」


 戦場を振り返る。

 そこは地獄だった。


 魔物に致命傷を負わされ動かなくなった、名も知らぬ子分たち。

 何匹ものオオカミに囲まれ、引っかかれ咬まれながら武器を振り回す三人の盗賊たち。

 辺りには奴らが倒した魔物が一匹転がっている。


 だが多勢に無勢。

 盗賊たちの劣勢は明らかだ。


「や、やめろっ! あっちいけぇ!!!!」


「くそっ! くそおおおお!!」


「うおおおおおおおおおおっ!!!!」


 タッテもヨッコも群がる魔物を遠ざけるので精一杯。唯一ビンダッタだけが魔物にダメージを与えているようだった。


(このままなら––––)


 そう思った矢先だった。


 タッテとヨッコを襲っていた内の二匹が、ギョロリと真っ赤な目でこちらを見た。


「?!」


 そして、


 グルルルルッ!


 ターゲットを俺に切り替え、こちらに向かい走り始める。

 どうやらこの世界の女神はとことん俺のことが嫌いらしい。


「……『スライム』ダブル!!」


 出し惜しみはなしだ。

 俺は両手に召喚したスライムびんを握りしめ、魔物に向かって駆け出した。




「……はあっ、はあっ」


 十分経ったのか、一時間経ったのか。

 その後の記憶は定かじゃない。


 次から次へと襲ってくるフォレストウルフをひたすら避け、びんをぶつけ、また避け続けた。


 そうして襲ってくる魔物がいなくなった頃。

 俺は崖にもたれ一人座り込んでいた。


 村から走ってきてからのオオカミたちとの激戦。

 足腰が悲鳴をあげ、もう立ち上がる力もない。


「…………」


 目の前には、凄惨な光景が広がっていた。


 血まみれで生き絶えた五人の盗賊たち。

 その何倍もの数のオオカミの骸。


 もはやその場で息をしているのは俺だけだった。


(俺、なんで生きてんだろ)


 身体中が痛い。

 俺自身もあちこち咬まれ、引っかかれ、血まみれの満身創痍だった。


「『ポーション』」


 たまたま村に来ていた行商人から買えた数少ない薬液を取り出し、少しずつ傷にかけていく。


 みるみる回復する皮膚。

 癒されない心の痛み。


「…………」


 しばしの休憩のあと、俺は盗賊たちとオオカミたちのために墓穴を掘り始めたのだった。



 ☆



 翌日の深夜。


 俺は夜の闇にまぎれ、これまでお世話になったあの村にきていた。

 村の人たちにどうしても伝えなければならないことがあったから。


(……これで、よし)


 一番お世話になった農夫のおじさんの家。

 その扉の横に、ビンダッタの斧と木の板に掘り込んだメッセージを置く。


『とうぞくはまものがころした。

 もうとうぞくはこない。

 いままでありがとう。

 てつや』


 孤児院で習った拙い文字で、頑張って書いたメッセージボード。

 これまでの村人たちとのやりとりが、温かく平穏な日々が思い出され、涙があふれる。


(長居しちゃだめだ……)


 後ろ髪を引かれる思いで歩きだす。


(明日には帝国に立とう)


 そう決心し、村の門を出ようとした時だった。


「待ちなさいっ」


 突然、辺りが明るくなる。


「えっ?!」


 俺はぎょっとして光の方を振り返った。

 すると、


「あなた…………」


 家屋の影から姿を現し、ランプで照らされた俺の顔を見て目を丸くしていたのは––––



 まごうことなき俺の推し。

 姫騎士のアリエッタ・ロレンティだった。








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