第2話

結果は…「最上級クラスだ。」


通知書にはこう書いてあった。



「ダリア・ルベル様は無事、魔力試験を通過し、「最上級クラス」に認定されましたので、ここにご通知申し上げます。」



僕の3年間のバラ色の学園生活が確定した。心は嬉しさでいっぱいなのに、表情筋は驚きのあまり恐らく死んでいる。メッセージの下には診断結果が表で纏まっている。



「闇:57% 炎:34% 雷:6% 心:3%」

「ん?心?」



そんな属性聞いたことがない。種族特有の属性はたまに聞くが、心なんて初めて耳にする。もしかして誤字だろうか。…まぁいい。僕のメイン属性は闇、サブ属性は炎。それを知れたら結構だ。


その下にはこう続いている。



「翌朝、荷物を纏めて寮へお越しください。鍵はカウンターからお受け取りください」



急だな。

いきなりすぎる手紙に少し苛立ちを覚えながらも、僕は部屋の荷物を纏め始める。まずは本だろうか。それとも着替えだろうか。必要なものの選別を始める。


本、服、勉強道具、押し入れからも荷物を引っ張り出す。

意外にも準備は早く終わる。明日が待ち遠しい。心臓が跳ね上がるようにソワソワする。少し痛い気もする。



「ふふ、落ち着くために少し散歩に行こうかな。」





緩めの風通しの良い外着に着替える。


外に出ると、暖かい風が頬をかすめる。「おちつきなよ」とでも言われてる気分だ。

花がゆらゆら揺れる。雲は太陽光を反射して控えめに色づいている。普段となんら変わりない景色。でも明日からはこの景色も、住居も変わってしまうのだ。そう考えると少し寂しい。


鼻歌を歌いながら歩いていると、後ろから足音がした。孤児院の先生だろうか。

平和な景色に浸っていたせいで、つい振り向くのを忘れてしまった。



「おい、お前、ダリアだよな?」



どこかで聞いた、キンキン鳴り響く声。ざわめきの一部だった声。

のどかで平和な景色に不釣り合いな声だ。



「…」



振り向くと、僕の肩にぶつかった陽キャラが立っていた。

だが、僕はあの時ぶつかったことに気づいていなかったため、完全に「?」状態である。制服を着ていないため、天竺学園の生徒とも気づいていない。



「とぼけんなよ。俺は見たからな。男子校に不釣り合いな女みたいな見た目しやがって。」



この発言でようやくこいつが天竺学園の生徒だと気づいた。

コンプレックスを指摘されて、さっきまでの長閑な気分は消え失せてしまった。

確かに僕は身長148cm、華奢、長い赤髪、長いまつ毛に大きい目の中性的な見た目をしている。でも僕からしたらいきなり現れた輩に自分の特徴をバカにされたのだ。苛立ちを通り越して気持ち悪い。



「失礼な発言は謹んでください。先輩の方ですか?」

「あぁそうだよ。失礼?お前がぶつかってきたのが悪いんだろ。」



(ぶつかったぁ?いつのことそれ。)と思っている。さっきから?状態が続いている。



「いつのことですか?」

「とぼけんなよ!入学式入り口で俺の肩にぶつかってきただろ!」

「え、」



あんなアリの巣の入り口みたいに混んでるとこでぶつからない方が難しい。っていうか、あんなとこでぶつかった人など覚えているはずがないのだ。

めんどくさい人だな。さっさと謝罪して終わろう。



「ぶつかってしまいすいませんでした。以後気をつけます。」

「言葉だけかぁ?誠意を感じねえなぁ」



絶対この人友達いないだろ。と思いながら渋々頭を軽く下げる。

こいつはただ単に謝って欲しいんじゃなくて、自分が気に食わないやつを締めたいだけだろう。学年は上かもしれないが、精神年齢は僕の方が上だ。可愛い子供だと思おう。



「は、今日はこの程度で勘弁してやるよ。ただ明日からは覚悟しとけよ」

「はい」



めんどくさいことになったな。

孤児院へ戻り、明日の最終確認をする。一応在籍中の住所は孤児院になるが、卒業後は就職して一人暮らしをするつもりだ。今日が最後の日常になるかもしれない。


先生、友達に挨拶をする。ソワソワしているような。寂しいような気持ちだ。

何とかざわつく心臓を抑えながら眠りにつく。意識が闇へ飲み込まれる。





翌朝。思いの外パッチリと目が覚める。今日は入寮の日。そして武器が配布される日だ。

前髪をかきあげ、顔を洗う。ネットで泡を立てて顔へ優しく塗り込む。ぬるま湯で流して、タオルでポンポンと顔を拭く。次に化粧水を顔に塗り込む。さらにクリーム色のジェルを塗り込む。ケアは完了だ。


次は赤髪に霧吹きをかけ、櫛で梳かす。男には似合わないゆるふわの長髪だ。長さは肩甲骨の下まで届くくらい。


いったん下ろしたままで制服に腕を通す。白シャツ、ジレ、黒の短パン、黒の網タイプの靴下をガーターベルトで短パンの裏に止める。黒いローブを羽織る。これで終わりだ。


次はヘアセット。アイロンの電源を事前につけ、後ろ髪に手を伸ばす。左側斜め下にお団子を作る。

アイロンが温め終わったら、前髪でセンター分けを作る。チョロ毛は短めに。かつ太くする。


次はメイク。ジト目の上にアイラインを引く。目尻は気持ち垂らす。目元に黒のアイシャドウを薄くいれる。ピンクのリップを塗ったら完成だ。


準備万端。荷物を持って学園へ向かう。





学園につくと、何人かの教職員が僕を待っていた。



「ルベルくんだね?荷物を運ぶのを手伝うよ」

「え、あ、運んでいただけるんですか?」



僕は驚いた。口調は同じだが、明らかに周りの生徒と扱われ方が違うのだ。周りの生徒がチラチラ僕を見ている。少し恥ずかしい。



「うん。最上級クラスの生徒だからね。扱いが違うのは当たり前だよ」

「そうなんですか、」



荷物を教職員に渡す。僕が重いと感じていた荷物を軽々持ち上げる。

さすが成人男性は違う。合計3つのバックを片手で運んでいる。



「荷物は運んでおくから、あっちのカウンターに武器と寮の鍵を受け取りに行ってね」

「わかりました」



指さされた方向に歩き始める。周りからの僕を見る目が違う。尊敬、嫉妬などの視線を感じる。後者の方が多い。若干の優越感に酔いしれる。



「あの、ルベルです。鍵と武器を受け取りにきました。」



すると長髪のお姉さんが顔を覗かせる。

その目は物珍しいものを見ているようにキラキラしている。



「君が主席で最上級クラスのダリア・ルベルくんだね!これが寮の鍵。あと…ちょっと待ってね!武器を出すから!」

「急がなくても大丈夫ですよ」



第一印象は張り切っているお嬢さんだ。新人さんだろうか。

その明るい態度にこっちまで微笑んでしまう。



「あ、あった!これだよ」

「おぉ…」



出された武器は、おしゃれなブレスレットだった。銀色の金属のツルが複雑に絡まり合い、中心にあの日の魔法石が埋め込まれている。僕が思っていたのは、剣、弓、槍などの武器で、ブレスレットが来るとは思わなかった。



「このブレスレットはそのままでも魔力を放つリモコンの役割として使えるけど、戦闘の意思をもったときには武器に変形するんだ。一般には出回ってないなかなかの優れものだよ」

「なんの武器に変形するんですか?」

「わかんない」



わかんない、か。

どうやらこのブレスレットは使いこなすのが難しそうだ。

試しに装着してみると、魔力の流れに変化を感じた。嫌な感じ、違和感などではなく、より魔力が自分の意志通りに流れる感覚だ。



「ありがとうございます。これからよろしくお願いします。」

「よろしくね〜!寮の部屋は分かる?一緒に行こうか?」

「部屋番号見たら分かります。ご心配ありがとうございます。」



そっか、とお姉さんは僕に別れを告げた。

寮の校舎に向かって歩き出す。個室はどうなっているのだろうか。

合格通知書が来た時、アンケートのQRコードで寮の家具の希望について答えた。その時はずいぶん我儘な返事を送ってしまった。内容はこうだ。


「ベットはネットで話題になっているソファーにも広いテーブルにもなる万能タイプ。ベットの向かいに勉強机、またはテレビを設置。洗面所、シャワールームが近い部屋。」


4割叶えられたらいいほうだ。階段を登りながら若干の不安と期待を募らせる。4階へ行くと最上級クラス専用の個室の階になる。通常クラスは四人部屋だ。


下の階と明らかに装飾が違う。真紅のカーペットが奥まで広がり、所々花瓶が飾られている。奥まで進むと、「Dlia・Ruber」と書かれた部屋がある。僕の部屋だ。


がちゃがちゃ


中へ入ると、僕は固まった。

狭いんじゃない。質が悪い分けじゃない。

広すぎるのだ。一般家庭のリビングくらい面積が広い。そして家具の配置を見てみると、概ね希望通りだった。壁に沿うようにベットが置かれ、向かい合う場所には窓があり、手前に勉強机がある。



「さすがにテレビは設置してもらえないか。」



そう思って代わりに窓から景色を覗こうとした時だった。

カーテンレールと窓の間に空間があるのだ。そこに下へ下ろせる板が挟まっている。覗き見防止用だろうか。


下ろしてみると、そこにはテレビが貼り付けてあった。

学園はしっかりと僕の要望に答えていたのだ。



「…一生ここ住みたい」



部屋をさらに見渡すと、ドアが二つついているところがある。開けてみると、洗面所とシャワールームだった。さすがにバスタブはないが、十分な贅沢だ。


ちょっと荷物を置いて休憩しよう。



「よいしょ」



ローブを椅子の背もたれにかける。

あ、そうだ。休憩する前にやらなきゃいけないことがあったんだった。


玄関口にカーペットを敷き、近くの棚に靴をしまう。

僕は吸血鬼ノ国にしては珍しく土足厳禁派だ。靴下を脱ぎ裸足になる。この開放感がたまらなく好きなのだ。事前に運んでもらった荷物を出して部屋着に着替えて、ベットをソファーに変形させる。



「これ確か高かったんだよなぁ。どっからお金出てんだろ」



学園から貰った書類を確認する。

どうやら僕が事前に払ったお金と、国からの補償金から出ている。

割合を見てみるとほとんどが僕からのお金だった。



「まぁ。そりゃ1000万ギル払ったらそうなるか〜」



1ギル=1円だ。

こう見えて自分は意外と稼いでいる。度々新しい薬を開発して、病院に売っているのだ。



(コンコン)



誰かが戸を叩く。いったい誰だろうか。



「は〜い」


「え、あ…」



入学式で見た顔。3年生学年主席の人が立っていた。

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裏切りの花を枯らす方法 @mineko0214

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