第2話 不審な男
桜子が行方不明になった事件の手がかりを求めて、愛理は街を歩きながら学校へ向かっていた。桜子がどこに行ったのか、その手がかりを掴むためには、まずは学校で何があったのかを調べる必要がある。
細い路地を抜け、賑やかな商店街を横目に、愛理は目の前の問題に集中していた。
その時、後ろから足音が近づくのを聞こえるより先に肌で感じた。不用意に振り返ることをせず、相手の情報を探る。
「……この音と靴のサイズ、男の人か。こんな私に何の用なんだろう……」
成人の男性がこっそりと後ろからついてきていたのだ。最初はただの通りすがりだと思ったが、何度かずらした愛理の歩調に合わせてきたため、尾行だとすぐに気づいた。
「ただの不審者なら楽なんだけど、子供と間違えられて補導されるのは面倒だなあ……」
今まで数々の事件を解決してきてそこそこ顔の効くようになってきた愛理だったが、それでも町に彼女を知らない人は多い。
面倒は避けるにこした事は無かったが、謎を残して逃げるのも癪に障る。愛理は探偵気質だった。
愛理はゆっくりと歩きながら、明らかに男がついてきていることを確認した。しばらく歩いてから、建物の角が近づいたところで急に歩くペースを速めた。
当然、男もペースを速めて追いかけてくるが、愛理はもう急いではいなかった。待ち伏せしていきなり顔を出して来た男を驚かせた。
「ばあ!」
「ひええ!」
男は驚いた声を漏らした後、一瞬、目を逸らし、足早に立ち去ろうとしたが、愛理は不自然なその様子を見逃すことなく、
「あなただったんですね、お父さん。探偵を尾行しようなんて千年早いですよ」
愛理が鋭くそう言うと、男はハッとした顔をした。愛理はすぐにその状況を理解して微笑む。
「待っていられない程、娘さんの事が心配だったんですね」
「どうして……どうして僕だと分かったんだい?」
男は慌てて変装を解くと、気まずそうに頭を掻いた。
「分かりますよ。探偵ですから」
愛理は軽く肩をすくめて笑ってみせる。
男はしばらく黙り込んでから、ようやく立ち直ったように言った。
「桜子のことが心配で……。君が一人で行くのも心配だったんだ。だって君は娘と同じ年頃のように見えるし……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。私はプロですから。格闘術を見せましょうか?」
愛理は自信満々に言ったが、少しだけ男の心配も感じ取った。
「でも、もしお父さんがどうしても心配なら、一緒に来ていただいても構いませんよ」
男はその言葉に少し驚いた顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。尾行がバレたことを恥じているのか、ちょっとした間が空いた後にようやく声をかけた。
「じゃあ……君について行ってもいいかい?」
「もちろんです。少し歩きながら話しましょうか?」
愛理は軽く歩き出し、男は恥ずかしそうに後ろからついてきた。
「ありがとう……君に頼むことができて、本当に助かってる」
「ところで、お父さんの名前は?」
「僕の名前かい?」
愛理は振り返って、にっこりと微笑むと、彼の緊張を解くように先に名乗った。
「私は愛理です。井上愛理」
「愛理……か、よく似合ってるよ」
男は少し恥ずかしそうに頭を掻きながら、続けた。
「僕の名前は……高島和宏。よろしく頼むよ」
「和宏さんですね。よろしくお願いします」
愛理は優しい笑顔で明るく答えた。
その後、二人はしばらく歩きながら、桜子のことについて話を続けた。和宏は桜子の普段の様子や最近の変化について話し、愛理はその情報を頭に入れながら、学校へと向かう。
「桜子は、最近家でも少し元気がなかったんだ。友達と何かあったみたいで……」
「それは重要な情報ですね。友達との関係が問題になっている可能性もあります」
「友達……確かに、少し気になることがあったんだ」
和宏はその話を続けながら、愛理の姿を見つめていた。最初は、こんな若い女の子が探偵だなんて信じられなかったが、今では確かな信念と実力を感じていた。少なくとも、桜子のために行動してくれる彼女に頼んでよかったと、和宏は心の中で思った。
二人は、次第に桜子の学校に近づいていく。愛理は冷静に周囲を観察していた。これからが本当の調査の始まりだ。
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