第32話『選別の儀式と狂気の魔導王』

 深夜になり俺たちは動こうとした。


「待ってください...... なんか音がします。 なんか人が歩いていきますよ」


 様子を知るために、扉に耳を当てていたレンドが言った。


「こんな時間に」


(さすがに記憶がかなりなくなっている...... もう前の世界のことは忘れてしまったな...... ただやるしかない)


 俺は金属化した腕で調べると、何人もの人たちが地下に向かっているのを感じる。


「どうやら地下へみんな向かっているようだ」


「何のために......」


「順番と言っていました。 力を授けるために何かしているのでしょうね」


 ディルセアにゼノフォスが答えた。


「その後をつけよう。 大勢ならそれほど目立たないだろう」


 俺たちは最後尾に紛れ込み、信者の後について向かった。


 

 信者たちはブガルガの部屋に入ると、隠し扉をあけ地下へと向かっている。


(ここで何をしている......)


 深くまで降りていくと、高い天井の広い神殿のような部屋があり、柱が何本も立っている。 左右には鉄格子が降りていた。


「ここは......」


「あそこにブガルガがいる」


 レンドが言うように祭壇の上にはブガルガがいて、信者たちが順番に並んでいる。


「あれ、ブガルガの上にあるのなにかしら......」


 ディルセアの言う方向を見ると、人のようなものが壁に埋め込まれるようにある。 


「レリーフ...... いや、生きている!」


 しかし、ほぼその体は壁と同化しており、手足が埋まっている。


 その時、ブガルガが話し出した。


「信者の皆さん、あなた方はより優れたものになるため、力を欲しました。 ゆえにあなた方に力を与えます。 さあ、カーマインさま」


 そうブガルガは壁の人物に向かっていった。


「おお、カーマインさま!」


「我らに力を!!」


 集まった信者たちから感激の声があがった。


「カーマイン!? 魔導王!!」


「......我の下僕よ、力を授けよう......」


 カーマインはボソボソと話すと、その体から白い霧のようなものが出て、先頭の信者の口に吸い込まれていった。


「ぐ、ぐ、ががぁぁあああああ!!」

 

 信者が苦しみだし、その体は歪に歪み、そのまま異形の姿へと変化した。


「あ、あ、ああ......」


「ああ、失敗ですか......」


 落胆したように言ったブガルガは、その変異した者を祭壇から蹴り落とした。


 信者らが騒然とする。


「これは! なんなのです! 魔法を授けられるのではないのですか!」


「化け物になるなんて聞いてない!」


「何をおっしゃる? 力を欲したのでしょう? なんの犠牲も払わず、得られるものなどありませんよ」


「しかし......」


「では力を得たものは、どうなるのか!」

 

「力を得たもの...... ではお見せしましょう。 来い」


 部屋の左右の鉄格子が開くと、武装した者たちが進み出た。 人では扱えなさそうな巨大なトゲのついた鉄球の棒メイスを持っている。 しかし、その目は虚ろでどこを見ているかわからない


「この者たちは強化の魔法を手に入れた者たちです。 その力はすさまじく、人間など一撃でその頭をたたき潰せます」


「......しかし、その者たちからは意思を感じませんが......」


「ええ、彼らは私の意のまま動くのです。 他国への侵攻のために意思を奪っております」


「他国への侵攻!?」


「なぜそのようなことを!」


「我らの教えを受け付けぬ、異教徒どもに粛清を行うためです。 ゆえに君たちには崇高な使命として兵士となっていただく」


「ふっ、ふざけるな!! そんなのはただの奴隷ではないか!」


「そうだ! 騙された! 私は帰る!」


「そうですか...... ならば」


 文句を言った者たちは武装兵に頭をつぶされた。


「......あなた方は、私の尖兵となり、私を劣ったものと揶揄し、侮辱した国を滅ぼすのですよ......」


 そうブガルガがニヤリと笑った。


 武装兵が周囲を囲んだ。


「やるしかないな......」


 レンドたちを見る。 みんながうなづいた。


 俺たちは走る。 


「なに!? 止めなさい!!」


 武装兵が前を塞ぐ、それをレンドたちが切り結ぶ。 しかし切られたところから傷が治っていく。


「そんなものは無駄! その者たちはカーマインさまの力で強化魔法を自分にかけている不死に近いのだ!」


(再生と不死に近い化物か...... ただ)


 俺は前にでた。


 ブガルガの前にいた武装兵がメイスを振り上げる。 


「契約(コントラクト)」


 鎧と皮膚を交換してそこに拳を叩き込む。 武装兵が吹き飛んだ。 信者たちは我先にとこの混乱に乗じて逃げ出した。


「ひぃぃ!!」


 ブガルガが腰をぬかした。


「貴様! なぜここに!!」


「信者には与えるのに、お前には強化魔法は与えられてないみたいだな」


「そ、それは......」


「宝玉はどこだ......」


 俺はブガルガの襟首をつかみ持ち上げる。


「知らん!! ぐふっ!!」


 俺はその腹を殴る。


「ひぃっ! 前教主がここを見つけたとき、売り払ったと......」


(くそっ、ないのか)

 

 俺はブガルガを投げ捨てた。


「ぐぼっ! カーマインさま!! この者に天誅を!! 聞いてるのかカーマイン!! ヴェルザグに負けた、この負け犬が!!」


「......ヴェル...... ザグ...... ヴェルザグ、ヴェルザグ!!! ヴェルザグゥゥウ!!」


 壁のカーマインが狂ったように叫ぶ。


「あの忌々しいヴェルザグ!! この我に頭を下げさせ! 蔑むように見下した! あのヴェルザグ!! 許せぬ!! 我より優れたものなど! この世にないぃぃい!!」


「そうです! ですから! カーマインさま! この不埒ものを殺してくださ...... げぶっ!!」


 ブガルガの頭を武装兵がメイスで叩きつぶした。


「どこだ! ヴェルザグ!! 我は負けてなどいない!! 殺してやる!!」


 カーマインは壁で吠えている。 武装兵たちは互いに攻撃している。


「ど、どうしたんですか? 急に仲間割れしてますよ」


 レンドがそう言った。


「どうやら、とっくに狂っていたようだ...... ディルセア」


「......ええ」


 ディルセアの魔法でカーマインが石へと変化すると、武装兵たちはその場で停止した。


 ゴゴゴゴ......


「なんの音ですか......」


 レンドがそう言った。


「わからない...... ただこの部屋の壁になっていたカーマインが石になったことで建物の構造に何かが起こってるのかも! 早く逃げましょう」

 

 ディルセアに言われて、俺たちは地下から脱出し、聖堂から逃げ出すと、聖堂は穴の中に崩れ落ちた。



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