第12話 銀髪銀竜少女 竜影紫音(りゅうかげしおん)――――ACT2 銀竜娘

 1つ見誤った事がある。地球では中年のおっさんだったが。


 この世界に来てから若返っていた事を頭の念頭に置いていなかった。


 それがどうしたかだって? 大人と子供の体格差に齟齬そごが生じるのさ。


 以前の大人の体感感覚たいかんかんかくで刀を掴んだ事で。コンマ数秒だが刀を掴むのが遅れた。   


 すると銀髪少女が突然、慌てふためき始めた。


「この技……刀折り?……嘘? 折られちゃう……つっ!」


 刀を離して俺から距離を取りやがった。どうしたんだ? なんでいきなり刀なんて離して……


「ん? いや、俺は掴むタイミングが遅れただけなんだがな」


「……男の子ってあんなに素早く動ける者なんですね。初めて知りました」

「ニャーアア! 凄いですニャン。ソウマ様」


 少し離れた場所で戦いをサポートしてくれるシスターと。


 全く戦いもサポートもしてくれないラグドール女神が応援してくれていた。


 あのラグドール女神。後で顔を全力で、もふもふしてやるからな。



「あ……刀……銀竜……折られる思って放しちゃった……お母さんから貰った大切な物なのに放しちゃった……」


 ……銀髪少女があたふたしてる。俺が今、掴んでいる刀。そんなに大切な物なのか?


「…………」



「ど、どうしよう。折られちゃう……折られちゃう……お母さん。ごめ…」


 俺はあたふたしてる銀髪少女に静かに近付き目の前で足を止めた。


 そんな泣きそう顔をしないでくれよ。おじさんが悪い奴に見られるだろう。


「ほら返すよ。大切な刀なんだろう? 悪いな大切な刀取ってしまってさ」


 スッと両手に握った刀を銀髪少女に差し出した。


「へ?……え? え? 何……で? 返してくれるの?」


「あぁ、今度は俺に取られないようにしっかり持っておけよ」


「グスン……ありがとう。男の子君て優しいんだね。君、お名前はなんて言うの?」


「名前? 俺の名前は相馬瀧そあまたきだが。それがどうかしたのか?」


 銀髪少女が、なみだぐみながら微笑ほほえんでいる。


 あぁ、良かった。これで泣かれる事もないか。しかし、おじさん少しドキッとしたぞ。


 笑うとこの娘、こんなに可愛いのか。


「相馬瀧……タッキー……私と同じお名前に竜が付いてるんだ。凄い凄い。運命みたいだね」


「そうなのか? 運命かそれは良いな。まぁ、今度は手からはなすんじゃないぞ。じゃあ……」


「うん! タッキーと私は結ばれる運命にあるんだね。私の事は紫音しおんて呼んでね。もしくは紫音ちゃん」


「いぞ?……はぁ? いや、俺はただ、刀を放すなよって言っただけなんだが」


 なんだ。この銀髪少女……じゃなかった。紫音が勝手に盛り上がり始めたんだが。


「うん。放さない放さない。タッキーも放さないから……うん。刀は使わないで竜の姿で戦ってタッキーと子作りするね」


 ……WHY? 紫音の言っている意味が分からん。


銀竜廻廊ぎんりゅうかいろう『銀雪化粧』――――捕まえてあげる。タッキー///」


 

「は? 紫音の身体が……巨大化し始めた?」


 儚げで美しい銀髪少女は、その姿を銀の竜へと変貌させていった。


 か細い両腕は強靭な竜の手に。


 背中の両翼は、よりたくましい竜の翼に。


 スリムなお腹は銀の鱗におおわれ。


 長細い脚は巨体を支える竜種の脚へと変貌した。


紫音しおんは……今の姿の紫音はヤバい奴に変わりやがった」


〖タッキー~! タッキーは私がこれから守ってあげるよ♡ リーダーからも。男の子狩りからも。天使にだってね。だってタッキーは私に凄く凄く優しくしてくれたもんね。これって運命だよね? タッキー〗


「中身が中年のおっさんに向かって何が運命なんだか。若気の至り過ぎるぞ。紫音、お前」


 紫音が俺に向かって竜凛をまとった手を伸ばして来る。


 相変わらず動きはスムーズに見えるが。あの手は不味い。


 触れられたら圧倒的な力で捕まえられ、好き放題俺の身体を使ってくる。


 ……いや、今の紫音からは、この裏世界で出会ったシスター以外からの異常性は消えたか。


 そして、それとは違う感情を俺にぶつけようとしてるんじゃないか? この女の子は。


「し、紫音、待ってくれ! 俺はこう見えても若返っただけの。ただの中年のくたびれたおっさんなんだー! だからお前はもっと。俺よりも若くて知的でカッコいい奴と結ばれてくれ~! 頼む! その方がお前は幸せになれるぞ~!」


〖うん! それがタッキーだよ。私、タッキー以外に若い男の子なんてあった事ないし。タッキーはカッコいいから大丈夫だよ♡〗


 コイツ。全然、人の話を聞いていないぞ! つうか。さっきまでのクールキャラはどうした?


 お前は1度でも優しくされたら態度を変えるクーデレなのか? 紫音。


〖タッキー……今夜は寝かせてあげないからね〗


「それは男の子が言う台詞だ! 紫音!」


 多分、くそ! どうするか。攻撃は遅いからけきれるだろうが。ここからの移動手段がない。


「ソウマさんには触らせません!『光反射』」


 俺と紫音の間に突然、シスターが飛び出して来た。おいおい、待ってくれ。シスターの身体能力じゃあ紫音の攻撃なんて食らったら下手したら死ぬ。


〖む? 何、貴女?……私とタッキーの会話。邪魔しないでくれる? 銀竜廻廊ぎんりゅうかいろう銀流線ぎんりゅうせん』〗


「シ、シスター! 危ないですよ! 逃げて下さい」

「……大丈夫です。魔法の発動は私の方が早かったですから」

「はい?」


 シスターがウインクしながら俺に笑いかけた。そして、次の瞬間。教会でも使った敵対対象だけに目眩ましさせるシスターの光魔法。『光反射』が発動し、辺り一面が白く輝いた。


〖キャア?! ま、眩しいタッキーが眩しいよ。タッキーどこ~?〗


「違う! 俺じゃない!」


 …不味い。ついつい変態銀髪少女の言動にツッコミを入れてしまったぞ。


「ソウマさん! 今です。あの茂みに隠れましょう!」

「は? 茂みに隠れる? シスター、それってどういう事ですか」

「イリアスちゃんが……いいえ、今はイリアス様が後はどうにかしてくれます」

「は? イリアス? あのラグドール女神が?」


 意味が分からん。この裏世界に来てからのイリアスはなごませ役担当のイメージがすっかり定着している置物状態じゃないか。



〖タッキー~! 大丈夫~? この眩しい中で転んでたりしてない? 怪我とかしてないよね? タッキー~!〗


「……貴女は本当は優しい女の子なんですね。竜影紫音さん」


〖だ、誰? タッキーの声じゃないよね? 目がチカチカして見れないよ〗


「今は見えなくて良いですよ……そして、さようなら吹き飛んで下さい。ソウマ様! 一緒に唱えて下さい! ソウマ様のお力でこの変態銀竜を吹き飛ばしましょう」


 アイツは何を言っているだ。ここは女神の最強パワーで紫音を沈める場面じゃないのか?



「いやいや、吹き飛ばすも何も俺は茂みの中……は? なんでイリアスの横に立ってんだ?」


 一瞬で銀の竜と化した紫音の前に戻っていた。何だこれは?



「さようなら。竜影紫音さん……手をかざして叫んで下さい。ソウマ様! 『暴風テンペスト』」

「は? おい!……手をかざして『暴風テンペスト』」


〖ふぁ?! わ、私の身体浮いてるの? タ、タッキー大丈夫~? 私が絶対に守ってあげるからね~! タッキー~! だから子作りしよ……ふぁあああ?! また強い風があぁ!! タッキー!! 逆に私を助けて~! タッキー!! タッキー~!〗


キランと紫音は東の彼方かなたへと。その銀色の巨体で飛んで行って見えなくなった。


「オホホホ! 正義は必ず勝つのです……ニャン!」


 アホネコに戻ったラグドール女神がニャンニャン喜び。高笑いしていた。うるさいからさっさとモフモフして黙らせよう。


「別に悪い娘ではなかったな。変わりもの変態ではあったが……移動手段どうするか」


 俺は困り果てながら、紫音が飛んで行った空に手を振っていた。




《日本のとある上空》


〖タッキー~! また会おうね~! 私のタッキー~!〗




銀髪銀竜少女編






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