第18話「正座でお待ち」


「サンポンカン! 行くぞついてこい!」

「「「へいあねさん!」」」


 ばぁん! と再び正面扉が開かれて、掛け声とともに突然どなたかが雪崩れ込んできました。

 その先頭は本日休みのはずのルイ、あとに続くのはルイがよく面倒見てる若手三人パーティのサンタとポニンにカナン──通称サンポンカンですね。


 四人は一斉に、しゅんと佇むナポリに殺到します。


「エル先輩は渡さねえぞ山狗亭! やっちまえ野郎ども!」

「「「へい姐さん!」」」


 それを止めるのはもちろんエル。

 カウンター内で立ち上がり、大きくはないですが鋭い声で諌めます。


「めっ!! ルイさんストップ!!」

「分かりやした! 野郎どもストップだ!」


 即ストップしたルイは、すでにナポリの体に取り付き前髪を引っ張り手にしたホウキを振りかぶっていました。

 前髪以外は坊主ですから、そこしか掴むところありませんものね。


「ルイさん! 三人組も! ハウス!」


 シッシッシッ、と手を振り示すエルに対してやや不満気にするルイでしたけれど、どうやら大人しく退散する様です。

 ルイはナポリの前髪を少し撫で付け整えて、すごすごと離れて壁際で三角座りの四名です。

 それに対してエルがさらに言いつけました。


「三角座りでなく! しばらく正座でお待ちなさい!」

「へい! かしこまり! 野郎ども正座だ!」


 ルイに巻き込まれたんだろうサンポンカンは可哀想ですが、常識的に言っても説教で良いと思います。四人とも。


「大変失礼しました。あの者どもには私からキツく言っておきますのでご容赦くださいませ」


 エルじゃなくってダグアです。

 さすがに対外的な場面じゃ標準語ですね。

 何より今日までは副ギルマスですし。


 依然として、しゅんとしたままのナポリは特に反応がなく、ルイたちの襲撃にビビったのかミラノは床に尻餅ついてます。


 しかしルイが飛び乗ってもビクともしないナポリはさすがですね。

 エルが言った、山狗亭のエースハンターというのも頷けます。確か討伐Aランクだったのでは。


 そう言えばウチの討伐Aランク、ロジン・バッグは国営ギルドへ外出中です。明日からエル副ギルマスの新体制ですから。

 何かあってからでは遅いですし、一応呼びに行っておきましょうか。



 ぱんぱんぱんっ、とズボンのお尻をはたきつつ、余裕を持ったていを装うミラノが立ち上がって言います。


「おたく、確かここの副ギルマスさんでしたなぁ!?」

「ええ、確かに。私が当ギルド海猫亭の副ギルマス、ダグア・ウートと申します。お見知り置きを」


 ダグアは胸に手をやりスマートなお辞儀をひとつ。

 それが逆にかんさわったのか、ミラノが逆上、ダグアの胸倉を掴もうというのか手を伸ばし──


「大変申し訳ありませんが!」


 ──その時響き渡った鋭い声。


「十四時までに引き継ぎのための資料をまとめねばなりません! ミラノさま、ナポリさま、わたくしに御用でしたらそちらでお待ちくださいませ。十四時以降にお話お伺い致しますので!」


 ばんっ! と机を叩いてそこまで言い切ったエルは、開いた左手の親指と中指でクイっとメガネを押し上げました。


 ブチ切れエルさんです。

 もうなんだかんだと十五分ほど、エルは窓口業務の時間を奪われていますものね。


 長い付き合いのミラノもナポリもその辺りよく分かっているんでしょう。


 ナポリはしょんぼりしたままサンポンカンの隣で正座、ミラノは行き場のない両手でダグアの肩辺りに埃が付いてましたよムーブをかましてから、大人しくナポリの隣で正座しました。


 さすがに少しして、「なんで儂まで正座せにゃならんねん!」などと小さく呟き三角座りに移行していましたけど。


 ちらほらとやってくるハンターや依頼者が、壁際に座る六人を目にしてはギョッとしていますが、特に新たな問題も起こらず十四時を迎えられそうです。


 「よし!」と小さく呟いたエルが、重ねた書類を机の上でトントンとしているのを目敏く見つけたダグア。


 エルのいるCカンに忍び寄り、そっと小声で尋ねます。


「エルさん、それで──んん゛っ、ほいでさっきの件なんじゃけど」

「どの件ですか?」


「ナポリどんの嫁入りとか言うとったヤツじゃべさ」

「ああ、はい。それが?」


「ホントにそんな話はねぇんでげすね?」

「全くございません。今のところわたくしに嫁入りの予定はどなたの所にもございませんもの」


 言ってて辛くなったのか、いつも以上にキラリとザマスを光らせるエル。

 泣いたって良いんやで──

 あらいやだ、私まで訛ってしまいそうです。


「なら良かったたい! オイもひと安心たい!」


「あ、でもダグアさま」

「なんたい?」


「たとえどこかにお嫁に行ったとしても、わたくしはここ海猫亭でギルド嬢を続けるつもりです。構いませんか?」


 それに対してダグア。にっこにこで言いました。


「構わんたい! 末長くよろしくでごわんど!」



 少し前に、ダグアがエル副ギルマス昇格の件を急ぎたい理由がある、と私が言ったの覚えておられます?


 一つはこの、『標準語がもう辛くて限界』ということ。ですけど。

 そしてもう一つは……、もうすぐ語られますかねぇ。

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