第17話「破落戸な濁声さん」
「ここにエル・ボガードってザマスメガネが居るだろう! 大人しく出しやがれ!」
昼間のまだまだ空いてるギルド内のホールに響き渡った
なんでしょう一体。
名指しでエルをご指名の様ですが。
「お探しのエル・ボガードならここですよ」
Cカンに陣取っていたエルが立ち上がってそう言って、さらにペコリと体を折って言ったんです。
「ご無沙汰しております、ミラノさま、ナポリさま。本日はどの様なご用件でしょうか」
おや?
なんだかとっても
Bカンに座っていたセンは怯えてダグアの後ろに隠れて震えているようですけど。
あれ?
そう言えばエルは二人の名前を呼びましたね。
見た感じ入ってきたのはお一人だけの様な気がしますけど……
ズカズカと踏み入ってきた筋肉隆々の大男。
額上部の中央に少し前髪を残して他は潔く坊主のこちらの方。彼がさっきの濁声の主でしょう?
「や、やぁエル、久しぶり。今日もメガネが凛々しいね」
めっちゃ小さい可愛らしい声。
さっきの大きな濁声は一体……
「儂が話す! オマエは黙っとれナポリ!」
「ごめぇんミラノ兄ちゃん、オレ黙っとく!」
可愛らしい小さな声の大男の後ろから、ピョンと飛び出た丸みを帯びた小柄な男。
「あ──あの二人は!」
「知ってるのダグアさま?」
「はっきりと顔まで見知っている訳ではありませんが、噂に聞く
なぜか途中で口籠もるダグア。
なぜか、なんて言ったけど私にはお見通しですけど。
「──そいでそのぉ、大男はその弟ナポリじゃなかんべなぁ」
そろそろ後悔してるんじゃなかろうかと思っちゃいます。応援してますよダグア。
けれど確かにダグアの言う通り。言われるまで忘れてましたが私はチラリとお顔を拝見した事あります。
確か兄のミラノ・バッピは
弟のナポリ・バッピは
そんなニックネームを持つバッピ兄弟ご本人ですね。
「山狗亭のギルマスとエースハンターのお二人が揃ってお越しとは何事ですか?」
「何事ってオマエ、決まっとるやろがぃ! オマエを連れ戻しに来たんじゃっつの!」
あら、こちらもなんだか訛ってらっしゃる──?
たとえ厳つい口調だとしても、今日に限ってお見えになるのはタイミングが悪かったですね。
センやダグアにギルド職員たち、ぷふっ、とか言って堪えていますもの。ダグア本人まで笑いそうなのが逆に私は笑いそうですよ。
「連れ戻す? どういう意味ですか? わたくしはここの従業員ですが?」
「そんな事は分かっとるっつの! でもウチに連れ戻す言うてんねん
顔を赤くして訛って話すML・Bことミラノ。
理解できずにコテン、と首を傾げるエル。
それを見て「はぅ」してるNP・Bことナポリ。
なんだか山狗亭時代のエルが目に浮かびますね。今とそんなに変わらないんじゃないでしょうか。
訛った人がいて、エルのコテンもあって、それに「はぅ」する人もいて──え、「はぅ」する人?
「儂に挨拶もなく辞めて出て行くっつのはどないやねん! えぇこらぁ!?」
え……そうなんですかエル?
ミラノの言葉にざわつく海猫亭の職員たち。
それは確かに問題が……
「きちんとご挨拶もしましたし、きちんとギルド法に則って退職の手続きも致しました。規則ですから」
さすがエル。強い。
彼女がこう言うからには、間違いなく山狗亭の方々の方が無法を言ってるんでしょうね。
「うぐぐ……小生意気なザマスめが……。
エルがこてん、ナポリが「はぅ」。
「覚えとらんのんかぃ! 儂の弟このナポリの!
え!?
よりざわめくギルド内。
けれど最も動揺が見られるのはダグアです。
一体なんのために『訛りキャラ』にまで進化したのかとね、そりゃあ動揺もしますよね。
「ちょ──ちょっと待ってみておくれだで!?」
動揺のままで飛び出すもんだから、訛りどころか言葉自体が変になってますよ。
「業務中に私事でお騒がせして申し訳ありません。速やかにお話を終わらせて業務に戻りますので」
大きく広げた左手の、親指と中指を使ってザマスを少し押し上げながらそう言うエル。
初めて見るメガネの押し上げ方…………はっ、もしやエル、貴女怒ってるんじゃ!?
「ミラノさま」
「へ、へぇ」
エルが発する目に見えない何かに押され、ミラノが小さく頷きます。
「ナポリさまへのお嫁入りの件、そのお話は終わっていないのでなく、始めてさえいないのです。その気は全くない、と最初にお伝えしたはずですが、お忘れですか?」
しゅん、と萎れるナポリ。
なんだか可哀想になってしまいますけど、まぁ別にどうでも良いですね。
どうやらエルにホの字の様ですが、せめても兄任せでなくご自分で玉砕するならまだ同情の余地もあろうというもの。
ロジンのライバル登場──!
なんて事にならなそうでホッとしましたよ。
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