3 剣士のKさんのケース【追放編】

 あんなことがあったから、一人で飲みたかったんだけどなぁ……


 見知らぬ男が酒場で相席してきた時、俺は正直そんな風に思った。「よそへ行ってくれ」と言いたくなるのを、なんとかエールと一緒に飲み込む。


 しかし、最悪なことに、男はとても仲良くなれそうにないタイプだった。


 年は俺より一回り以上も下、二十代前半というところだろう。それなのに、シャツからネクタイピンに至るまで、全身を高級ブランドで固めていた。いかにも成功者という雰囲気である。


「ケヴィン様、あなたはパーティを追放されたそうですね」


 ずっと面倒を見てきたメンバーには解雇される。今日初めて会った男には馬鹿にされる。今日は一体なんて日だろうか。俺は思わずエールに手を伸ばす。


「失礼いたしました。私はこういう者です」


 俺が酔い潰れると困るようで、男は急いで名刺を差し出してきた。


『ざまぁ代行「モーオソイ」』


 続いて、サービス内容を説明してくる。俺のような追放された冒険者に、もっといい新メンバーを紹介しているのだという。


「いえ、結構です」


 若き成功者に嫉妬して、意地を張っているわけではなかった。むしろ、冒険者の助けになろうとする彼に好感さえ持っていた。


 だが、それでも『ざまぁ代行』を利用する気にはなれなかった。


「僕が追放された理由はご存じですか?」


「もうずっと、剣士としての成長が止まっているのだそうですね」


 自分から質問したとはいえ、思わず耳を塞ぎたくなるような回答だった。


「僕は子供の頃から【剣術Lv3】のスキルを持ってましてね。当時は〝天才だ〟〝神童だ〟って、地元じゃあ評判だったんですよ。

 ところが、それ以上スキルが成長しなくて。この年になっても、まだ【Lv3】のままで……」


 スキルのレベルは最大9まで。レベル3は所詮、「初級上位」「新人が持っていたらすごい」という程度のものでしかない。剣士としてやっていくには物足りない数字なのである。


 一時期は、【剣術】は早熟なだけだったと見切りをつけて、別のスキルを鍛えようとしたこともあった。しかし、【武術】や【槍術】のレベルも結局2や1で成長が止まってしまって、他の職業に転向することはできなかった。


「パーティを追放されるのは、実はこれが初めてじゃないんです。【剣術Lv3】に合わせて、僕は自分よりも年下と組むようにしてきました。でも、いつもいつも周りの成長に置いていかれてしまって。

 そのたびにメンバーには〝もう足手まといなだけ〟とか〝いつまでも先輩面するな〟とか言われてしまって。だから、もう冒険者は引退しようかと」


 一部の例外を除けば、そろそろ衰えが始まるような年だった。次の仕事を早く覚えられるように、余力の残っている今の内に転職した方がいいだろう。……転職先はまだ決まっていないが。


「ケヴィン様にご紹介したい方たちはまだ新人の上に、素直な性格をしています。私を信じて、最後にもう一度だけパーティを組んでみませんか?」


 自分の新人時代にも、ベテラン冒険者に指導者としてパーティに加わってもらっていた頃があった。そうやってモンスターの探し方や野営のやり方を学んだのだ。


 ベテランからすれば、新人に合わせて低ランクのクエストを受けなくてはいけないため、指導は金にならない嫌な仕事ということになる。にもかかわらず、昔お世話になった冒険者は初歩から一つ一つ丁寧に教えてくれた。だから俺も、業界への恩返しとして、指導を引き受けるべきではないだろうか。


「でも、代行業の方ということは、紹介料を払わないといけませんよね?」


 最終的に冒険者を辞める気でいるのは変わらない。次の仕事が決まるまでのことを考えると、出費はなるべく抑えたかった。


「弊社が紹介した冒険者と組んでいる間は、ギルドを通じて成功報酬の0.1%が差し引かれることになります」


「0.1%!?」


 単純に考えたら、1000人の冒険者と契約して、ようやく人並みの生活が送れるという計算になる。会社経営が成り立つとはとても思えなかった。


「たったそれだけでいいんですか?」


 俺の疑問への証拠を示すように、男は高価そうなネクタイピンに触れた。


「ケヴィン様の真の実力を考えれば、十分すぎるほどの紹介料になりますので」

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