第4話 春秋戦国デリュージョン
1.成田空港・搭乗ゲート
真冬の成田空港。中国行きの搭乗ゲート前で、芥川治(50代、脚本家志望のサラリーマン)は、自分の妄想した歴史大河ドラマ「天命」の脚本を分厚いノートに書きつけながら、目を輝かせていた。
「よし、殷周編は完璧だ。『徳』を究極まで耐え忍んだ佐藤浩市(文王)と、『悪』に堕ちた小栗旬(紂王)の対比が素晴らしい。そして、**西田敏行(太公望)**のあの飄々とした知恵…」
治はノートを閉じ、小さくガッツポーズをした。このフライトで中国の地に降り立てば、彼の妄想はさらに深まるはずだった。
「これでこそ、歴史大河だ! 紀元前の世界を、現代最高の俳優陣で表現する。これぞ、中華の『王様のブランチ』ならぬ、『天命のブランチ』…いや、違う、『天命の…』」
治は口元を押さえ、周囲に人がいないか確認した。
2.機内・離陸直後
B787型機の座席に深く座り込んだ治は、窓の外を流れる雲を眺めながら、早速「春秋戦国編」の構想に取り掛かった。
「周王朝が弱体化し、春秋戦国時代が始まる。ここからは、**『力 vs 策略』**の時代だ。登場人物のレベルをさらに上げねば…」
彼はノートの次のページを開いた。
「文王の遺志は、やがて斉の**
治は、機内食のメニューを広げるふりをして、俳優の顔を思い浮かべた。
「斉の桓公…五覇の筆頭。
彼の妄想は加速する。
「桓公を真の覇者に導くのは、もちろん、**
治は、まるで今、堤真一と西島秀俊が自分の目の前で機内食を注文しているかのように感じていた。
西島は『あすなろ白書』しかり『ドライブ・マイ・カー』しかり暗い役が多い。それにしても霧島れいかとの絡みはスゴかったな。
3.春秋戦国編の対立軸(妄想会話シーン)
治は、目を閉じ、脳内で桓公と管仲の会話シーンを再生し始めた。
【シーン:斉の宮殿。覇者の道】
(堤真一演じる斉の桓公が、酒を飲みながら不満そうに西島秀俊演じる管仲に語りかける)
桓公(堤真一):「おい、夷吾(いご・管仲の名)よ! なぜ、こんな小国の魯(ろ)ごときに、奪った土地を返してやるのだ? 弱腰と見られぬか!」
ヒノノニトンの『トントントン、ヒノノニトン』が浮かんで笑いそうになった。
管仲(西島秀俊):「
桓公(堤真一):「信義? そんなものは武力の前には無力ではないか!」
管仲(西島秀俊):「いいえ。これからは**『経済力こそが最強の武力』となります。斉には海の幸、塩があります。これを使って天下の富を吸い上げ、その富で天下の賢者と兵を養うのです。『管子の思想』**です」
(治はここで、西島秀俊の鋭い眼光が機内の薄暗い照明の中で光るのを感じた)
桓公(堤真一):「経済力で天下を制す、か… 面白い! やってみよ、夷吾! 朕の覇道を、お前の知恵で輝かせてみろ!」
4.着陸前の予感
治は、機体が降下を始めた揺れで、現実に戻った。
「うむ! 桓公と管仲。ここに**『徳と策略』という新しい秩序が生まれた! 次は、呉越編。臥薪嘗胆の越王・
治は、機内誌の空白に「勾践:高橋一生、孫武:阿部サダヲ、伍子胥:玉木宏」と殴り書きした。
機体は、中国の土に静かに着陸した。
「よし、着いたぞ…!」
治は、手荷物棚から愛用の分厚いノートを取り出した。これから始まる中国の旅は、彼にとって、壮大な歴史大河ドラマの**『第二幕』**の始まりを意味していた。
(芥川治の「春秋戦国編」の妄想は、中国の街中でさらに加速する…)
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