芥川治の冒険

鷹山トシキ

第1話 ​🐉 倭人が見た、中国古代編:黄河の黎明

 序章:涿鹿の霧

​ 紀元前。世界はまだ混沌としていた。巨大な黄河はしばしば氾濫し、人々は自然の力と、それを操る荒ぶる神々の恐怖の中で暮らしていた。

​ 黄河のほとり、涿鹿たくろくの野。

​ 後の世に中華文明の祖とされる黄帝、名は軒轅けんえん。彼の顔を演じるのは、真田広之の持つ、静謐せいひつながらも揺るぎない威厳だ。

​ 彼は、周囲の部族を統合し、農業と文字を広め、人々に「秩序」という概念を教えようとしていた。しかし、彼の前に立ちはだかるのは、圧倒的な「暴力」の化身だった。

​「混沌こそが、この大地の真の姿だ、軒轅よ!」

​ その声は、野獣の咆哮にも似ていた。

​ 戦神・蚩尤しゆう。演じるは、竹内力の持つ、岩石のような肉体と、荒々しい眼光。蚩尤は獣の皮を纏い、銅の頭を持ち、八本の腕を振るうという伝説の戦士だった。彼の部族は、黄帝が築こうとする「文明」を、弱者の虚飾として憎んでいた。

​ 黄帝の軍勢と蚩尤の軍勢は、この涿鹿の野で、雌雄を決する最終決戦を迎えようとしていた。

 第一章:秩序と混沌の戦い

​ 戦いの前夜。黄帝の幕舎は、静寂に包まれていた。黄帝は、天を見上げる。

​「私は知恵と術をもって人々に豊かさを与えようとした。だが、蚩尤は、力だけがすべてだと信じている。この戦いは、『知恵と力』、**『秩序と混沌』**のどちらが、この大地を統べるかを決める戦いだ」

​ 彼の参謀は、黄帝に問いかけた。「戦神蚩尤は、常に霧を呼び、敵を混乱させます。いかにして、その術を破るおつもりか?」

​ 黄帝は、幕舎に飾られた、彼の発明したばかりの**「指南車しなんしゃ」**に目を向けた。車の上には、常に南を指し示す木の人形が乗っている。

​「蚩尤は、霧で敵の視界を奪う。だが、私の知恵は、方向を指し示す。人々が己の足元を見失わぬ限り、道は失われない」

​ 翌日。両軍が激突すると、伝説通り、蚩尤は大地から濃密な霧を呼び出した。数メートル先も見えない、深い濃霧。黄帝の軍勢はパニックに陥りかける。

​ 蚩尤の軍勢は、その霧の中を水を得た魚のように動き回り、黄帝の兵を次々と屠っていく。

​(竹内力演じる蚩尤の、霧の中で八本の腕を振るい、敵をなぎ倒す、鬼気迫るアクションシーン)

​ しかし、黄帝は慌てなかった。彼は静かに命じた。「指南車を動かせ!兵士たちよ、南を信じ、前進せよ!」

​ 指南車が軋む音を立てて進む。兵士たちは、視界は奪われても、進むべき方向が示されていることに希望を見出した。彼らは、蚩尤の猛攻を耐え忍び、霧の中を進軍した。

 第二章:天命の閃き

​ 霧が晴れた瞬間、蚩尤は驚愕した。黄帝の軍勢は、全く混乱することなく、彼の本陣の目の前に到達していたのだ。

​「馬鹿な! お前の知恵は、神の力をも凌駕するというのか!」

​ 蚩尤は、武器を投げ捨て、素手で黄帝の指南車を破壊しようと飛びかかる。

​ 黄帝は、真田広之の持つ、研ぎ澄まされた剣術の動きで応戦する。黄帝が持つ剣は、伝説の軒轅剣。

​(真田広之演じる黄帝と、竹内力演じる蚩尤の、剣と肉体が激突する壮絶な一騎打ち)

​ 蚩尤の力は圧倒的だった。黄帝の剣が、蚩尤の銅の皮膚に触れるたびに、火花が散る。黄帝は、力の差を悟っていた。力では勝てない。

​ その時、黄帝の脳裏に、この文明を築き上げるために発明してきた**「知恵」の全てが閃いた。彼は、指南車の破片、そして周囲の草木を利用し、「火」**を生み出した。

​ 火は、蚩尤のまとっていた獣の皮を焼き、彼の目を眩ませた。そして、黄帝は、最後の力を振り絞り、渾身の一撃を蚩尤の心臓に突き立てた。

​ ドスッ。

​ 蚩尤は、絶叫と共に、地に倒れた。彼の流した血が、大地を赤く染め上げた。

 終章:文明の礎

​ 黄帝は、倒れた蚩尤の上に立ち、静かに剣を納めた。

​ 霧は完全に晴れ、涿鹿の野には、再び太陽の光が降り注いでいた。黄帝は、この戦いで、暴力と混沌は知恵と秩序には勝てないという、中華世界の根幹となる**「天命」**の思想を確立させたのだ。

​彼は、人々を率いて黄河のほとりへ戻り、農業と文字を教え続けた。

​ そして、時は流れ、黄帝の偉業を継いだ**禹(阿部寛)の時代。黄河が再び氾濫した際、禹は長年の治水事業の末、人々を救い、ここに中華最初の王朝とされる夏(か)**を建国する。

​ 伝説の時代は終わり、中国の歴史は、**「王朝」**という名の現実の物語へと突入していった。

​この後、夏王朝末期の暴君・桀(窪塚洋介)の退廃と、殷王朝の創始者・湯王(堺雅人)の出現を描く「殷周編」へと続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る