Ep04.神戸美空-01 遭遇 

「いやぁ~、今日もヤバい・・・一日だったわ」

 

 友人と食べた41フォーティーワンアイスクリームの季節限定ソーダストリームフレーバーアイスの写真と感想をSNSへ投稿しつつ、同時にRINEで先程まで一緒だった友人へスタンプを送る。死神イケメンの話に花を咲かせ、適当に授業をこなし、放課後は流行りのスイーツを食べたあと解散し、帰路に着く。これが栗色ポニーテールの女子高生――神戸美空こうべみそらの日常であり、有意義な学生生活なのだ。


 しかも今日の美空はツイていた。41フォーティーワンの入口で、白霊学園のイケメン四天王が一人――山吹水星やまぶきすいせいに遭遇したのだから。


 美空より、一年先輩の水星。見た目冷徹クールで口数が少なく、近寄り難いイメージがついている彼だが、その神秘性ミステリアスさがより白霊女子の間で人気に拍車をかけているらしい。


 短髪の水色髪アクアマリンヘアーは女性のように艷やか。髪色と同じ水色の透き通るように綺麗な切れ長の瞳に見つめられたなら最後、水星ファンクラブの仲間入りだ。


「お姉さんのうた先生も美人だし、何を食べたらあんな姉弟きょうだいが育つんだって話よねっ」


 彼女が話題にしていた詩先生とは、白霊学園で音楽教師をしている水星の姉――山吹詩やまぶきうた。姉も美しい顔立ちで、その包容力に溢れる優しい性格が男女問わずに人気の先生だったりする。


「やばたん! もうこんな時間。もう帰らないと、TokTok投稿する時間なくなるしー」


 イケメンに思いを馳せ過ぎて、時が経つのを忘れていた彼女はスマホに表示されている時間を見て我に返る。


 どうやら家へ帰ってからも、彼女の休む暇はないらしい。晩御飯を食べる前に、TokTokへ動画を投稿。お風呂にスマホをセットし、動画サイトを巡回したあと、寝る前にアプリでイケメンとのイチャラブタイム。複数のアプリゲームとSNSとRINEを同時にさなければいけないのだ。彼女曰く、宿題なんかやっている暇はないんだそう。


 このあとの多忙な・・・スケジュールに思いを馳せつつ、帰り道にある公園へ通りかかる。この公園を抜けるとショートカットが出来るので、いつも夕方この公園には立ち寄るのだが……そこである異変に気づく。いつも公園で遊んでいる子供や、木陰のベンチで休憩しているサラリーマン、犬の散歩をしているご近所さんの姿が見当たらない。それだけではない。公園に足を踏み入れた瞬間、木の葉が揺れる音も、小鳥の囀りも、通りを走り抜ける車の音も何も聞こえないのだ。


「あれ? おかしいな? それに何なん? ……この肉を焼いたような焦げ臭い匂い……」


 音の無くなった空間を恐る恐る進む。公園の奥、屋根つきのベンチとテーブルで焼いた肉の塊を食べている大男が見えた。それはまるで、漫画に出て来るような肉だった。現実世界の公園に似つかない所謂マンガ肉と呼ばれる骨付き肉をひたすらむさぼり喰う男。


(あれに近づいては駄目だ)


 素早く木陰に隠れて美空はその場をやり過ごす。大きな肉の一本を食べ終えた大男は、ベンチの脇から次の肉を取り出している。木陰に紛れ、大男の後ろへと廻り込んだ彼女は、男のベンチ下に一瞬見えた何かに戦慄する!


(え? 人間の……脚?)


 全身に鳥肌が立ち、上の歯と下の歯がガチガチと音を立てて震え始める。音を立てては駄目だと分かっても、震えを止める事が出来ない。何とか震える脚を奮い立たせ、その場から逃げようとする美空。しかし、公園の出口へ差し掛かった時、見えない透明な何かに激突し、その場に転倒してしまう。


「あれ~? あれあれ~? 駄目だよぉ~この中に入っちゃあ~~。巻き込まれちゃうよぉ~~?」


 檸檬色のツインテールにハートをあしらったアホ毛のように飛び出た髪が一本。上下、アイドル衣装のような橙色の衣装、下は同じくフリルのついた可愛らしいマジカルスカート。見た目はさながら魔法少女かアイドル。キラキラ輝く金色のぱっちりおめめで美空を見下ろす女の子。この異常な空間にはあまりにも不釣り合いな少女の出現に、半ばパニックとなった美空は公園を出ようと見えない壁を叩く。


「どうして? 助けて……助けてよ!?」

「う~ん。どうしよっかなぁ~~。あいつはまだ食べる事に夢中だしなぁ~~」


 指をくわえ、どうしようか考えている少女。『そうだなぁ~~でも逃がしちゃうとあの人に怒られるしなぁ~~』と何かを呟いている。すると、女の子の姿に既視感を覚えたのか、何かに気づいた美空がスマホを取り出す。


「あれ? あなた……どこかで?」

「ざんね~ん。この空間でスマホは使えないんだぁ~。このままうちのコト思い出されてもうち困っちゃうから、ごめんねぇ~」


 女の子は懐から先端に紅い宝石のついたステッキを振り翳し、先端からキラキラとした星が出現する。小さな星屑の光に包まれた美空の視界は真っ白になり、彼女の脳裏には、魔法少女の声が響く。


「よかったねぇ~お姉さん。これからお姉ちゃんはお姉ちゃんの望む理想の身体を手に入れるんだよ? 大好きな甘い物も、美味しい物もいっぱい食べても大丈夫。うちに逢いたくなったら、またうちのコト、呼んでね☆彡」


 その場から美空の姿は消失する。再び静寂に包まれる公園。やがて食事を終え、魔法少女を探していた大男がやって来る。


「おい、セイラ! こんなところで何やってるんだ!」

「何にもしてないよ? 偶然お気に入りの子を見つけただけ」


「おいおい、〝詠会の儀よみおくり〟中に外へ出たら駄目だろ! 〝あいつら〟に見つかるだろうが!?」

「だいじょうぶだよ。それより後片付けはちゃんとしといてよね! うちも忙しいんだから」


「嗚呼、分かってる。また腹が減った時は頼むぞ! 報酬は弾むからな」

「は~い。お・じ・さ・ま♡」


 〝詠会の儀よみおくり〟の結界は解け、公園は日常の姿を取り戻した……かに見えたのだが。


 この日の翌朝、老人の散歩で連れていた犬が公園のベンチ近くで成人男性の白骨死体を発見する。


 日常と非日常は表裏一体。闇は今日も誰かの背中を狙っているのかもしれない。



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