第41話◇ついにルーカスとの直接対決よ!!

『ちょっと、まだどうぞって言ってな……!?』


 シンディさんが文句を言い切る前に、かき消す勢いでトレイナーさんが声を張る。


「我は真の漢にふさわしき薔薇とは何か、滝に打たれるうちについに到達したのだ。刮目せよ!!それがこの品種、名は『清廉潔白』である!!」

『司会に最後まで言わせて下さいよ!!もーっ!!』


 シンディさんはたまらず、といった様子で声を上げるけれど、トレイナーさんは気にしていない。


「巨大輪であること、病気に強いこと、花弁は先端が尖っていて厚みがあり、傷みにくいこと!!暑さにも強いこと!!以上の条件を満たしたものがこれである!!」


 誇らしげに示された花は確かに両手に余る大きさで、とても迫力がある。


『病気に強くて傷みにくい、最高じゃの。傷みやすい花弁は薬効成分の抽出時も時間との戦いになってしまうのでな』


『見事な半剣弁高芯咲き、何と凛とした立ち姿。あえて芽を摘んで花数を絞ることで一つ一つの花を大きくしたか……』


『確かにこれはすごく潔い、すっきりした純白だ。花持ちも良さそうだから切り花にも向くだろうな』


『甘さ控えめ、スパイス系の香りが少しだけ……香りもくどくないから、甘くて重い香りが苦手な人には良さそう』


『レストランには食べ物以外の香りはいらないのでな。料理店の邪魔にならなそうな香りで望ましい。一輪あるだけでもパッと目を引くし、印象が強いのもありがたい』


 なるほど、食べ物のお店の受付に飾ると考えると、香りが薄い方が助かることもあるのね……。

 盲点だったわ。

 わたくしがお店を作る時もそこのところをちゃんと考えないと。


『濃いキャラで惑わされましたが、思いのほか繊細に手をかけた大作でした!!でも、せめて司会の話はちゃんと聞いて下さいね、トレイナーさん!!次の方、どうぞ!!』


 どうぞ!!とシンディさんがルーカスを促した瞬間、一気に緊張が高まる。

 わたくしも、観客席も。


 それまでは「勉強になるわね」なんて思いつつ、ひたすら審査員の講評を聞いていたのに。

 ついに、直接対決だわ……!!


「ルーカス・オルコットだ。この薔薇の名は『サンライズ・グラデーション』。朝焼けの太陽の色から名付けている」


 けれども、一歩踏み出したルーカスがこう発言したその瞬間、時が止まったように思えた。


 どうせ全く別の品種名を好き勝手に申請するのではと、こちらはすっかり思い込んでいたのに。

 何故、わたくしが名付けたその名を知っているの……!!


 その疑問が、ぐるぐるとわたくしの脳裏を駆け巡る。


「薄い黄色のグラデーションに、その輪郭にははっきりとした赤みのオレンジ色。あの黄みと赤みが混ざった、まるで朝焼けの瞬間の空の色を切り抜いたような薔薇だ」


 そうよ。

 わたくしもそう思ったからこそ、絶対にこの薔薇を新品種として推そうと決めたの……。


 得意げに淀みなく口走る様子。

 この程度のことならすらすらと言える。

 そう、最低な人間とは思うけれど、ルーカスは意外と口先が器用なのだ。


 本当にルーカスが朝焼けを見て名付けたのだと、それを育てた人間なのだと、他の人から見て思われてしまうかも……。


 きっと上手いこと辻褄を合わせるために、図書館で「初心者にもわかる!薔薇の育て方入門」の本を借りたんだろう。


『この、丸っこい花弁がフリルのようになった、深みがあるカップの形に似た咲き方は、珍しいな』


『薔薇らしいダマクスに、少しスパイスのクローブのような風味が混ざった、不思議と印象に残る香り……いいわね』


『本物のクローブの場合は鎮痛・抗菌・消毒、他にも様々な効能があるわけだが、この花はどうかのう?分析してみたい』


『ふむ、これは肉や魚のソースとしても悪くないかもしれない。ドレッシングでも……』


 審査員の人たちもルーカスの発言に聞き入っている。

 唯一、お父様だけは沈黙して、眉間に深いしわを寄せているけれど。


 ルーカスの発表を、審査員五人のうち四人までもが絶賛している状況……。

 わたくしは改めて状況の厳しさを意識する。


 すると、自分の有利を悟ったようで、ルーカスが勝ち誇ったようににやりと笑って、こちらを見てきた。


 っ、負けないわ……!!


 この男が言わなかった特徴。

 育ててきたわたくしだからこそ知っている、そんな特徴こそを、発言しなくては。

「ただ横から奪っただけ」の者では絶対に指摘できないことを、言わないと――!!


『しっとりとした朝焼けが頭の中によみがえりますね~!!まぁ、私の場合、大抵その時間は徹夜か早起きの寝不足のままで取材しているわけですが……!!それでは、次の方どうぞ!!』


 ……ああ。

 シンディさんにどうぞと言われてしまった。

 ついにわたくしの番が来てしまったのだ。


「アメリア・ローズ・マクファーソンです。わたくしの苗の品種名は『サンセット・フェアウェル』です」


 一歩前に足を踏み出して立つと、わたくし自身、そしておそらくわたくしの薔薇の映像が投影魔法の中で大写しになったのだと思う。

 ざわり、と会場中が色めき立った。


「アメリア嬢のあの花。あれはもしかして、ルーカス卿と同じ品種なのでは……?」

「本当だ、黄色に輪郭がオレンジ赤の色、似すぎだろ……」

「でも、名前が違う?サンライズとサンセット?」


 さっきルーカスが発表していた時も出品者と薔薇がセットで大写しになっていたから、似ていると認識した人が割といたのかもしれない。


「もしかして、あれが盗んだかも、っていう花……?」


 騒ぎ出した人々の声が耳に響く。

 その声は、どちらかというと、わたくしに対して肯定的なものではないようで……。


 やっぱり、クジ運がなくて順番が遅くなってしまったことが大きく影響しているかもしれない。

 そしてルーカスやオルコット家の息がかかった人たちが煽っているのかもしれない。


「やっぱり、アメリア嬢がルーカス様の薔薇を盗もうとしてたんですよ!!私はルーカス様から、アメリア嬢の素行の悪さを聞いていたんです!!」

「そうよ、お父様が言う通りよ!!」


 早速、はやし立ててくる人たちがいる。

 わたくしの視界、観客席の最前にファニーがいるのが見えた。

 あの時、馬車は壊れてしまっていたものの、何とかこの会場に辿り着けたみたい。


 ファニー、それからその隣の……彼女が父だと口走ったってことは、あの小太りの男の人がエイミス男爵なのね。


「先日なんて、図書館に行った娘のファニーはアメリア嬢にドレスの裾を破られる嫌がらせをされ……可哀想に……!!」

「すごく怖かったんです、私……」


 大げさに手で顔を覆って同情を引くように声を上げるエイミス男爵と、それに合わせてクスンクスンと鼻を鳴らして噓泣きし始めるファニー。


 ……は?

 図書館でドレスの裾が破れた?


 そんなことあったかしら、と思い起こしてみた結果、わたくしに絡んできた時に、ウィル様に氷の氷柱で図書館の床にはりつけにされていたファニーの姿が思い起こされた。


 ああ。

 もしかして、ウィル様の氷魔法で破れたものを、わたくしにやられたってことで喧伝しているの?

 男爵家の立場で公爵令息のウィル様の名前は、さすがに出せないものね。


 つまり、彼女は個人の判断だけでルーカスとの仲を深めていたわけじゃなかった。

 エイミス男爵の意志も込みでの、家族ぐるみの動きだったのね……!!


 わたくしは思わず、ファニー、そしてエイミス男爵も、まとめてギロリと睨みつける。


「うっ!!な、何と恐ろしい顔をする女だ!!あの目つき、やはりアメリア嬢がルーカス様の薔薇を盗んだに違いない!!」

「お父様、私、こわぁい……!!また嫌がらせされちゃうぅ」


 二人はこうやってわたくしをいらつかせることで、衆人環視の中で私を辱めて、失言を引き出そうとしている……。


 それが分かったわたくしは意識して、気持ちを切り替えることにする。


 イライラを抑えるために、すうっと大きく深呼吸して、心を一度整えて。

 薔薇以外の雑音を、全て頭の中から追い出す。


 そうして、わたくしはわたくしの、大切な、大切な薔薇について、語り出した。

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