第40話◇ライバルたち

 人々への注意喚起をすると、気を取り直して、といった感じでシンディさんは司会進行する。


『それでは、今から個別の審査に移ります!!出品者はエントリー名、確定していれば種名、そして花の特徴など、推しポイントをお願いします!!それでは一番の方から、どうぞ!!』


 どうぞ、と指し示されたそこには、小さな男の子が立っていた。

 身に着けているのは、貴族学園の低学年の制服かしら?


「よ、よろちく……っ、いっ、いたっ!!舌かんじゃったっ!!」


 促されて話し出そうとしたはずが、両手で口元を押さえて涙ぐんでいる。

 痛かったようだ。


 ど、ドジっこ眼鏡ショタくんだわ。

 こんなに小さい子も出ていたのね。


「よ、よろしくおねがいします!!ぼく、チャーリー・アスカムです!!ぼくのつるバラのとくちょうはっ、すごくいいにおいがすることです!!」


 うんうん、いいにおいねぇ、と思わずほのぼのしかけてしまったけれど、わたくしはハッとする。


「何、この薔薇の香りは……!!」


 何だかすごく、甘酸っぱいわ。

 しかも、少し離れているわたくしのところにまで届くほどの強香、これは……!!


『あら。本当にバランスいいわ。なかなかいい趣味ね、坊や』


 わたくしが考えた通り、まずベサニー様がすかさず反応する。

 香りの専門家としては黙っていられなかったみたい。


『ふむ、一人でよくここまで育て上げたものだ』

『病気もない。眩しいほどの若さに溢れた、元気な苗じゃの』

『とんでもなく美味いレモンティの香りだな』

『花も丸弁のカップ咲き、白にほんの一滴だけインクを垂らしたほんのり薄い黄色。可愛らしいから、人気が出そうだ』


 審査員全員、感心しているみたい。


 そうよね、鉢に設置したアイアン製のオベリスクにしっかりと蔓を誘引していて、すごく見栄えがいいもの。

 しっかりと手間をかけているわね。

 身近にいい先生がいるのかしら。


「ありがとうございます!!えっと、品種は『ロレッタ』です」

『人名のようだな』

「えっと……ぼくの、すきな子の名前です……」


 呟くと、ポッとチャーリー君は赤面した。


 あらら。

 もしかして、周囲の大人の指導力の成果ではなくて、初恋パワーで頑張った結果かも。


『うおおおお、まるで初恋のように甘酸っぱーい!! い、いいなぁ~!!私、羨まし過ぎて目頭が熱くなってきました……』


 思わず、といった感じでハンカチを自分の目元に当てるシンディさん。

 けれども、プロとしてそのまま強い気持ちで進行している。


『うーっ、次の方っ、どうぞ!!』


 その言葉に、わたくしが立つ場所のほんの数メートル先にいた少女が一歩前に進み出る。


「ダーシー・アダムスです」


 黒い喪服のようなドレスを着た彼女の顔は青白く、銀髪の髪に結ばれたレースのリボンも黒。

 唇だけが赤かった。


「私が作り上げたのは、乾きかけた血のように赤黒くて可愛らしさも兼ね備えた黒薔薇『小悪魔の微笑み』です。最初は鮮血のような鮮やかな赤の花弁が、咲き進むにつれて黒く変化していくのです……ヒヒ……」


 こう紹介された通り、それは見事な黒のミニ薔薇だった。


『禍々しいとも言える色に対し、一枝に小さな花が房のように咲くポンポン咲きなところが「可愛らしさ」なんだろう』


『この黒さをしっかりと出すのは難しかったはずだ。土作りなど環境整備も含め、執念を感じるな』


『生れ落ちて五百年の我でも、めったに見たことない品種じゃな。従来の薔薇とは効能が異なっていそうで気になるのぅ』


『せっかくのハーブとスパイスを組み合わせたような珍しい香りだけど、香りが弱いのは、私としては残念ね』


『だが、とても珍しいのは確かだ。逆に俺はこれを乾燥させて粉にして、ハーブやスパイスのようにかけたい。繊細ゆえに合わせる食材は選ぶ必要があるが』


 赤黒い色合いは好き嫌いが分かれそうだと感じていたけれど、意外と審査員たちには好評のようだ。


『禍々しさと可愛らしさの共存、それはまさに小悪魔!!そんなやり手の女性に、私もなりたかったぁぁ!!では次の方、どうぞ!!』


 次に現れたのも女性。

 けれども、さっきの不健康そうにも思えるダーシーさんとは真逆の、とても威勢がいい方だった。


「あたいはダルシー・トイ!!うちの薔薇はとにかく元気!!元気な苗はいい肥料あってのもんだ。うちは牧場やってるんでなぁ!!いい堆肥があるんだ!!」


 こう言い放ったかと思うと、まず挑発的に王族観覧席を見る。

 そして、トレヴァー卿とお父様を見て、次にわたくしやルーカスを……「貴族」であるわたくしたちを見る。


「たしかに主催は王妃様かもしんね。でもなぁ、薔薇は農民の前でも美しく咲くで。お貴族様だけのもんでねぇぞ!!」


 む。

 なかなか挑発的ね。

 こちらを見ながらその台詞とは。


 彼女は特に出品者かつ貴族の立場の、わたくしとルーカスを、とりわけ強く意識しているようだ。


『確かに苗全体がつやつやと光り輝いておるな。元気な苗の方が薬効成分も多く含んでいるしの』


『半剣弁の平咲きもシンプルでいいし、香りもいい……。アプリコットとりんごが混ざったような、爽やかな香り。花の色もアプリコットで可愛いじゃない』


『ふむ、骨粉で土の成分を補っている……牧場なら容易いか』


『発言のみを聞くと、肥料にばかり重きを置いているようにも聞こえるが、肥料信者となって量をあげすぎてもいない』


『日当たり・水の量・土の配合……細かい手入れが適切かつ丁寧だからこその、この質。素直に敬意を表したい』


 審査員たちの言葉に照れつつ、笑顔になっている彼女。


「お、お貴族様でも、ちゃんと見てる人は見てるんだな!!」


 どうやら、直球で褒められると弱いらしい。


『品評会は出品者の身分には左右されない、モノの質でこそ戦う場、そんな当品評会の理念が現れた出品者と薔薇、そして審査員の講評でした~!!それでは次の方……』


「待ちかねたぞ!!我はトレイナー!!姓などない!!筋肉しか持たぬ!!しかし我こそが薔薇界最強の漢である!!」


 いい感じのコメントで締めたシンディさんが、次の方を紹介しようとした瞬間だった。

 異様に屈強、筋肉が盛り盛りのいかつい男性が、かぶるように大声で発言する。

 それはキーン!!としばらく耳に響くほどの大声だった。


「薔薇がか弱き女だけのものと、誰が決めた!?苗を運び、土を運び、肥料を運び、必要があれば造園もする!!花き産業こそ最も漢らしい仕事!!漢の中の漢の仕事と見つけたり!!」

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