第三楽章 ⑮ 剣の舞
直後、両者の【ハンドベル】の
空間が
刀身の大きさも本数も、王国軍将校が小柄な女子奏兵を
だが、音響力の細剣を
まるで妖精が
見ているだけで身体が硬直するほどの美しさと恐怖だった。
申し合わせたようなタイミングで
その逃げた先を
「エーカ、ここは任せて先に進みましょう!」
「う……うん」
気付けば、一瞬の攻防に
戦闘の動きを目で追うことすら叶わない。そんなエーカが、ここで立ち止まっても
扉の奥に続く通路へ駆け出しつつ、エーカは何度も背後を振り返る。
いまだ
「あの二人なら大丈夫よ!」
前を走るルチアが言う。
「近距離と中距離の
ルチアが言っているのは数が有利という話ではなく、異なる
彼女たちの場合、ハンドベル猟兵が《盾》となって前方で敵の攻撃を防いでいる間に、トランペット奏兵が後方から《矛》として演奏時間の長い大曲を撃つことが可能となる。
たとえるなら、ジャンケンで二つの手を同時に繰り出すようなもの。反則的に有利だ。
自分より強い者たちへの心配を振り捨て、エーカは通路を抜けて次なる空間に飛び出した。
そこは、今まで見てきた空間に比べれば小さいものの、学校の教室ほどの面積はある部屋だった。
床には様々な物資が置かれているが、中でも壁にかけられた工具や機械類が目立つ。
無人の部屋の奥には、またしても大きい扉があった。
ただし先ほどの扉とは構造が違うようで、前後に開閉する両開き式ではなく、左右に扉が移動する引き戸だった。
しかも、その引き戸は
扉枠の上には数字、右横には押しボタンが設置されていた。
一番奇妙なのは、引き戸の奥に通路が続いていないことだ。
「なにこれ……、トイレ?」
「は?」
エーカの純粋無垢な質問に素っ気ない答えが返される。けれど王国民の日常生活で、こんなに小さい空間は個室の
「……これはトイレじゃなくて、昇降機よ。人や物を上下の階に
ルチアによれば目の前の小部屋は天井からロープで吊るされており、それが建物を貫く空洞の中を
もちろん初めて知った。
「へー、すごい魔法だね。これも精霊さんの力で動くの?」
「違うわよ」
ルチアは苦笑しながら説明する。
「この街の民間施設では見かけないだけで、他の都市の工場や銀行には大規模なものが昔から設置されているのよ。水力や蒸気機関で動くエレベートルなら、人類が魔法を思い出す以前から存在するわ。もちろん帝国にもあるわよ」
見渡しても他に階段などはないので、どうやら要塞の階下へ行くためにはこの昇降機に乗る必要があるらしい。
ルチアは二枚の蛇腹扉を左に開け、特に警戒する様子もなく小部屋の中に入った。手招きされたので、エーカも恐々としながら後に続く。
二枚の扉の間には暗い隙間があり、風が音を立てていた。
「二人も乗って大丈夫なの? ロープで吊り下げてるって言ったけど、縄が切れて落っこちたりしないよね?」
「……落ちてもジャンプすれば大丈夫だから」
「ほんと?」
「ごめん、嘘……」
なぜ嘘をつかれたのか不明だが、冗談を言う余裕があるのなら心配はないという意味だろう。そもそも昇降機に細工がしてあれば、マルコと名乗った王国軍将校がここを守っているはずがない。
今はそう信じる。
ルチアは扉を閉め、室内に設置されたレバーを操作。すると数秒後、小部屋が徐々に下へ動き始めた。ロープが突然切れるような
この駆動音は、確かに人間が創造した機械に違いない。精霊の知識と力で動いている装置なら、もう少し
ルチアは横の壁につくられた小窓を見ながら昇降機を操作しているので、おそらく決まった時に
やはり人類製だ。
昇降機の出入り口となっている場所や、柵が設けられているだけの階が下から上に通り過ぎていく。
ある部屋で、天井から下がった紐が見えた。
紐の下に頭が見えた。
頭の下に胴体が見えた。
足は床に着いていなかった。
何十本もの足の裏が見えた。
気が付けば昇降機は停止していた。
エーカは、そのことをルチアに話しかけられた時に初めて知った。直前に大きな振動が起きた気がするが、それどころではなかった。
「よし。初めてだけど、上手く止められたわ。ここが昇降機で行ける一番下の階みたいね」
目を見開いたまま動かないエーカに、操作盤から視線を外したルチアは続ける。
「どうかしたの? トイレ?」
「……なんでもない」
昇降機の中で見た光景を脳裏から消し去り、エーカは蛇腹扉を右に開けた。
どんなに怖くても、もう引き返せない場所まで来たのだ。
何があっても立ち止まらない。
そう決意し、エーカは一歩を踏み出した。
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