第2話 取引
翌日の夜。私たちはカジノギルド『セブンズミラー』の一室にいた。
豪華な応接室の中央、革張りのソファに座る七三分け、上唇をなぞるように整えられた髭、白スーツの男がいた。
その名はジュランテ、セブンズミラーの幹部の一人だという。
私たちは闇カジノで行われた録画を彼に見せた。
「やってくれたわね。ニック、マーヤ」
ジュランテは映像魔石を指で弾いた。そこには昨夜のイカサマ現場がはっきりと映し出されている。
「あの闇カジノの男、クラウゼは私が長年目をつけていた。だが証拠がなく手を出せなかった」
ジュランテは自身の髭をつまむように撫でて、私たちに視線を向ける。
「本当にあのカジノに潜入して来るとはね」
「これで分かったろジュランテ」
ジュランテの口元に笑みが浮かぶ。
「この映像があれば、奴の失脚とカジノそのものをわたくしの手中に収められる」
私は彼の考えを遮るように提案を出す。
「ジュランテ、取引しましょう。私たちはあなたに将来の利益を、あなたは私たちに今の力を」
ジュランテは髭を撫でながら、私を値踏みするように見た。
「面白い提案ね。具体的には?」
「この証拠を使ってクラウゼと再戦の場を設ける。私が勝てば、あのカジノの経営権は私たちのもの。あなたには将来、より大きな組織での地位を約束する」
「本当に成功したら魅力はあるのだけど、リスクが高い。失敗したら?」
「その時は私たちを売ればいい。あなたは証拠を握っている側だから損はない」
「ニック、彼女の提案にどう考えを?」
「僕はマーヤと同じ考えをしている。今の僕たちが成り上がるにはそれぐらいしなくちゃいけないから」
ニックがさらに補足を追加するように提案する。
「僕たちが裏カジノを拡大すれば、あんたはセブンズミラーで表の力を保ちつつ、裏でも影響力を持てる。一石二鳥だ」
「ふむ……なるほど。あなたは裏で勢力を拡大しつつわたくしには表で暗躍しろと言うわけですか」
ジュランテは長い沈黙の後、笑みを浮かべた。
「一週間後、あのカジノで公正な勝負をさせましょう。資金の工面も用意してあげる」
「助かる」
「はぁ……わたくしが資金担当で良かったわねあなた達。ここのギルマスである『リーシャ』を出し抜けるなんて、わたくしぐらいよ」
ジュランテは立ち上がり、手を差し出した。私はその手を握り返す。
握手を交わした瞬間、私の胸に熱いものが込み上げた。
ようやく、本当のスタート地点に立てる。
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