第33話
「うっ……ぐすっ、ぐすっ」
旗色が悪いと思ったのだろうエディットは、泣き落としでこの場を切り抜ける作戦に切り替えたらしい。
器用にもすすり泣きを始めた。
「ルーベン殿下、どうか王城で勤勉に働いてきたわたくしのことを信じてください! 現れたばかりのジェイミー様よりも、長い年月を問題一つ起こさずに仕えてきたわたくしの方が信頼に値するはずです!」
「長年の付き合いを信じると言うなら……ジェイミーに軍配が上がるな」
「それは、どういう……」
「ルーベンと私は、つい最近出会ったばかりの仲ではないという意味ですよ」
ルーベンと私が見つめ合って微笑む様子を、エディットは唖然としながら眺めていた。
「ジェイミー様は、今年ルーベン殿下が森で出会った恩人だと伺っておりますが……それに王城に来たのはつい最近のことですし……」
「その話は、今はどうでもいいのです。話を引き延ばして、その間に逃げる方法を模索しているのかもしれませんけれど」
私が懐から取り出した杖をエディットに向けると、エディットはゆっくりとソファに座った。
それでいい。
別に私はエディットを攻撃したいわけではない。エディットからは話が聞きたいのだ。
「俺はジェイミーのことを誰よりも信頼している。君が何を訴えようとも、俺はジェイミーの言葉の方を信じる。ジェイミーが記録映像を捏造していないと言っているのだから、この映像は実際にあった出来事だ」
ルーベンが迷いの無いまっすぐな瞳でエディットを見つめた。
そんなルーベンの目を見て、捏造の話は聞き入れてもらえないと悟ったのだろうエディットが、ぎゅっと自身の手を握った。
「…………すみません。これは実際にあった出来事です」
「ではエディットは組織の内通者ということですね?」
私の確認に、エディットは首を横に振った。
そして震える声で告げる。
「この男性に紙を渡したことは事実です。ですが、内通者という話は誤解です。わたくしはただ、好みの男性を見つけて、連絡先を渡しただけなのです。相手も同じことを考えていたようで、あの一瞬で連絡先の交換が完了したのです」
まだ言い逃れをするつもりなのか。往生際が悪い。
組織の内通者だと判明したら重い刑罰が待っているから、足掻く気持ちは分からないでもないけれど。
「すれ違いざまに初対面の相手に連絡先を渡して、どちらも歩みを止めず振り返ることもなくその場を去ったと? そのような言い訳が通用すると、本気で思っているのですか?」
「……本当の、ことなのです」
さすがにこの言い訳は苦しいとエディット自身も思っているようだ。目が泳いでいる。
けれどこの状況で引くわけにはいかないのだろう。
しかし、私たちはこれ以上エディットの戯言に付き合っているほど暇ではない。
「いいでしょう。あなたが自分の意志で自白しないのなら、自白魔法によって自白させるだけです」
私は手に持った杖をくるくると回してみせた。
エディットが恐怖を滲ませた目で私のことを見上げている。
「有名な話ですから、エディットも自白魔法の後遺症は知っていますよね? 自白魔法を掛けたら後遺症で廃人になってしまいますけれど、仕方がありません。だってエディットが自分からは話してくれないのですから」
何かを言いたいものの何を言えばいいのか思いつかない様子で口をパクパクと動かすエディットの前で、ルーベンに自白魔法の使用許可を求める。
「ルーベン、自白魔法を使用しても良いですよね? 王子であるルーベンの許可があれば、使用しても問題は無いのでしょう?」
「そうですね。この状況なら、使用もやむを得ないでしょう」
エディットは口をパクパクとさせることをやめ、代わりに歯をガチガチと鳴らし始めた。
どうやら短時間であれば自白魔法を使用しても後遺症が残らないという話は、魔法使い以外の人間の間ではそれほど有名ではないようだ。
「エディット。自白魔法を掛けられる前に言い残すことはありますか?」
「…………申し訳ございません。わたくしは、組織に王城内の情報を流していました」
ついにエディットが落ちた。
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