三
宿場町を牛耳る赤城一家。
親分・赤城弥助は金で買えないものは暴力で奪う男だ。
そして最近、京から“客人”が来て匿われているという噂があった。
“京”
その言葉に、男の視線がわずかに揺れた。
夜、かもめ屋で小さな宴があった。
若い百姓・権太が酒を飲んでいたが、目が沈んでいる。
「赤城一家の取立てが、ひどい……。
妹が病で寝てんのに、薬代まで持ってかれた……」
拳を握り、震わせる。
「奴ら……今度はお茜さんまで狙ってる。京の客人の好みだとか言って……」
お茜は黙って杯を置いた。
目の奥に消えぬ恐怖が潜んでいる。
そこに旅回りの薬売り・玄斎が現れた。
風のように静かな男だ。
「……おや、黒装束の旦那。
京で血の匂いを嗅いだことがあるでしょう」
男の肩がごく僅かに硬くなった。
玄斎は笑う。
「二、三年前。近江屋で龍が斬られた夜。
あの匂いを知らぬ顔ではないはずだ」
政吉が睨む。
「余計なこと言うんじゃねぇ」
だが男は、ただ一言だけ返した。
「……知っちゅうよ」
乾いた土佐の訛りが、そこにはっきり乗っていた。
店の空気が凍った。
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