宿場町を牛耳る赤城一家。

親分・赤城弥助は金で買えないものは暴力で奪う男だ。

そして最近、京から“客人”が来て匿われているという噂があった。


“京”

その言葉に、男の視線がわずかに揺れた。


夜、かもめ屋で小さな宴があった。

若い百姓・権太が酒を飲んでいたが、目が沈んでいる。


「赤城一家の取立てが、ひどい……。

 妹が病で寝てんのに、薬代まで持ってかれた……」


拳を握り、震わせる。


「奴ら……今度はお茜さんまで狙ってる。京の客人の好みだとか言って……」


お茜は黙って杯を置いた。

目の奥に消えぬ恐怖が潜んでいる。


そこに旅回りの薬売り・玄斎が現れた。

風のように静かな男だ。


「……おや、黒装束の旦那。

 京で血の匂いを嗅いだことがあるでしょう」


男の肩がごく僅かに硬くなった。


玄斎は笑う。

「二、三年前。近江屋で龍が斬られた夜。

 あの匂いを知らぬ顔ではないはずだ」


政吉が睨む。

「余計なこと言うんじゃねぇ」


だが男は、ただ一言だけ返した。


「……知っちゅうよ」


乾いた土佐の訛りが、そこにはっきり乗っていた。


店の空気が凍った。

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