路地の奥で、若い娘がおさえつけられて泣いていた。

赤城一家の三下・久蔵が笑いながら娘の着物を掴んでいる。


「おう、黒装束。なんだその格好は。

 西洋被れのガイジン気取りか? 邪魔すんなや」


銃声が風より速く鳴った。

久蔵の肩口が弾け、血が飛沫になって石畳を赤く染めた。


久蔵は悲鳴を上げて転げる。

もう一人のヤクザが刀を抜き、突っ込んで来た。


男はわずか半歩引き、身体を傾ける。

その動きは、風の流れに身を合わせるような自然さだった。


銃口が心臓の上に置かれる。

乾いた音が鳴る。

男は表情一つ動かさない。


倒れたヤクザの血が冷たい地面を黒く染めた。


娘は震えながら男を見た。

「……あ、ありがとう、ございます……」


「気にすんな」


土佐訛りがわずかに混じった。

娘は気づかない。


政吉が後ろから現れた。


「……赤城一家に目ェつけられたな、あんた」


「そうか」


短く返す。

その声音には、死を恐れぬ穴の空いた静けさがあった。

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