二
路地の奥で、若い娘がおさえつけられて泣いていた。
赤城一家の三下・久蔵が笑いながら娘の着物を掴んでいる。
「おう、黒装束。なんだその格好は。
西洋被れのガイジン気取りか? 邪魔すんなや」
銃声が風より速く鳴った。
久蔵の肩口が弾け、血が飛沫になって石畳を赤く染めた。
久蔵は悲鳴を上げて転げる。
もう一人のヤクザが刀を抜き、突っ込んで来た。
男はわずか半歩引き、身体を傾ける。
その動きは、風の流れに身を合わせるような自然さだった。
銃口が心臓の上に置かれる。
乾いた音が鳴る。
男は表情一つ動かさない。
倒れたヤクザの血が冷たい地面を黒く染めた。
娘は震えながら男を見た。
「……あ、ありがとう、ございます……」
「気にすんな」
土佐訛りがわずかに混じった。
娘は気づかない。
政吉が後ろから現れた。
「……赤城一家に目ェつけられたな、あんた」
「そうか」
短く返す。
その声音には、死を恐れぬ穴の空いた静けさがあった。
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