第2話 小悪党の自分語り

そして最後に3つ目、これが一番大きな理由。

俺はAランクダンジョンに挑むにはまだ弱い。


俺のは【小悪党】でレベルは85で、この世界でもかなり上位までレベルをあげている。

だが、この世界はレベルが高ければそれだけで無条件で強くなれるほど甘くない。


ジョブは転職できない。上位進化もない。

一度授かったジョブを、一生鍛え続けるしかない世界だ。

スキルや魔法にも適性があり、相性のいいものはすぐ覚えられるが、悪いものは膨大な時間をかけても身につかない。

多くのスキルは、どれだけ努力してもことのほうが多い。


【小悪党】は平均型だ。

体力も、攻撃も、防御も、魔力も、全部それなり。

闇魔法のデバフは使えるが、魔法職ほどの威力は出ず、前衛を張るには耐久が足りない上、火力役には決定力がない。

索敵も、トラップ解除も、本職には及ばない。

器用貧乏。それが、このジョブの本質だ。

ヒーラーに至っては【回復魔法】を使えないからもってのほかだ。


パーティーを組めばいいじゃないか!足りないところは仲間と助け合おう!って思うかもしれない。

俺もできるなら固定のパーティーを組んで攻略したいさ。


考えてみろ。パーティー組んでれば攻撃面、防御面、サポート面、それぞれに特化した人間が集まってパーティーを組むわけだ。 

隣にそれに特化した人材がいるのに、俺がいてもやれることは多くない。

全く通用しないわけではない。だが、が必ずいる。


何度もAランクダンジョンに挑んだが、もっと適した人間がいる以上、命がけで戦うダンジョンで最善の選択肢があるのに、次善策を取る人間などそうはいない。

俺を正式にメンバーとして迎え入れてくれるパーティーはなかった。


故に、Aランクダンジョンに挑むには、遠回りでもBランクダンジョンで少しでも鍛えて、Aランクダンジョンに挑戦できるように頑張るしかなかったんだ。


俺の探索者としての目標は最強クラスの探索者になること。その為には最低でもAランク探索者になる必要があるだろう。

Aランク探索者に昇格するには、Aランクダンジョンをそれなりに探索出来ることが最低条件だ。

だが、その夢も限界が見えてきていた。

レベルを一つ上げるのに数ヶ月の時間を費やすようになってきている。

相手とのレベル差が多過ぎてまともに経験値が得られていないのだろう。

だからといって、まともにAランクダンジョンに挑めない以上、効率が悪かろうとここで鍛えるしかない。


半分諦めたような気持ちで、惰性のままダンジョンを潜っていた中、にここ【大鬼オーガの修練道】で偶然転移トラップを踏み、エクストラエリアとも言われる階層に飛ばされてしまった。

幸か不幸か、エクストラエリアはそのダンジョンの最下層を超える難易度を誇るものの、今までには早々お目にかかれないレア度のアイテムが見つかることもあった。

探索者が100人いても、エクストラエリアに入れたことのある探索者は1人いればいい方だ。

俺は希少な出来事を、なんとか活かそうと奮闘した。


俺はエクストラエリアの凶暴な魔物と戦いながらダンジョンの奥底まで進んだ。

現れる魔物は全て探索者協会ですら把握していなかった未記載種。

強さもAランクダンジョンの魔物に匹敵していたが、何度も偵察を重ねながら、時に魔物一匹に半日ほど費やし、着実に攻略した。

ずっとBランクダンジョンで鍛えてきたおかげで、ギリギリ俺でも攻略を進めることができた。


持ち込みの食料が無くなるギリギリ、1週間程でようやくボスエリアに到着した。

ボスエリアの前にはダンジョンから帰還できる転移陣があった。

恐らく多くの探索者はここで帰還したんだろう。

エクストラエリアの情報は多少噂で聞くが、それを攻略してどんなアイテムを入手した等の情報は、殆ど聞いたことがない。

それも当然と言えば当然なんだろう。

命あっての物種だ。

適性レベル以上の魔物が当然の様に出現するエリアのボスと戦うなんて恐ろしい行為だ。


だが、その時の俺は、自分の限界に行き詰まっている現状を変える何かが、この先にあるんじゃないか?自分がエクストラエリアに来れたのには何か意味があったんじゃないか?

その想いでボスエリアに突入した。

そこにいた鬼という魔物は、圧倒的に格上で普通は勝ち目のない相手だったけど、俺にとっては相性が良い相手で尚且つ魔物は油断していた。

おまけに運も良かった。

戦いの果てに両腕を失う怪我を負いながらなんとか辛勝することができた。

それから半年経って、さらに強くなっている今の俺でも、勝てるか分からないほどの強敵だったが、それを打倒し一つのアイテムを入手することになった。



【気まぐれな神の転生石】…レア度9 このアイテム使用者の技能アーツ、その他ステータスに由来する全てを生贄に捧げることで、自らのステータスを本人の願いを元に再構築する。ただし願い通りに再構築するかはランダム。また、生贄にするレベルや等が多い程願いは叶いやすくなる。使用することを願えば、このアイテムを使用出来る


まさに俺の探索者としての活動をやり直すことができるかもしれない希望のアイテムを入手することが出来た。

俺はこのアイテムを使用する事を決め、なるべく願いを叶えてもらうべく、各スキル・ジョブのレベルアップ、習得に努めた。

最近はダンスなんかもやったりしてたおかげで今日のジョブレベルアップで【ダンス】のスキルを習得出来た。


ここらへんが潮時だろう。この半年間でかなりの技能アーツ・スキルを得た。

【小悪党】のスキル適性が、割と浅く広い傾向があったから直接戦闘にはあまり寄与しないタイプのスキルも多く習得出来た。

今日、【気まぐれな神の転生石】を使用する。






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