20251202

会議が終わり、ひと段落したので遅い昼を食べる。時刻は夕方。陽も落ちかけている。手近に済ませようとチェーン店の蕎麦屋に入る。古いテナントビルの一階に掲げられた看板の上には、風にさらされ続けた室外機が幾つも並んでいる。

がらんとした店内は奥に細く伸びた作りをしている。食事を置く横長の台と腰を乗せるだけの丸椅子が30個ほど。入り口のそばには券売機がふたつ並んでいる。キャッシュオンリーの、交通系ICカード対応のモノがひとつずつ。カードやカード決済は使えない。

メニューの写真がプリントされた長方形のボタンが6個ずつ格子状に並ぶ中、券売機の上部は一際大きな6個のボタンに占領されている。ボタンにプリントされた新メニューたちがこれでもかと主張する中、迷わずもりそばのボタンを押す。

発券された食券をカウンターへと回す。カウンターには消毒用アルコールと未使用のトレイが積まれている。従業員は二人、どちらもアジア系の顔立ちだ。

まだ日本語が不慣れな従業員に応対されながら、番号が呼ばれるのを待つ。

店内のBGMとして曲名がわからない演歌が流れる。カウンター奥のキッチンでは、店員たちによる外国語の会話が賑やかに飛び交う。勤労から解き放たれた言葉たちは生き生きと弾んでいる。時折漏れる笑い声。

やがて、よそゆきの日本語に呼ばれ、注文の蕎麦を受け取る。つゆにつけ、さっとすすった蕎麦はするすると胃袋に流し込まれる。

あっという間に蕎麦を食べ終え、顔を上げる。窓の外は一層と薄暗い。刻一刻と夕方は過ぎ去り、夜が来て、1日が終わる。

腹も膨れたので、食器を返却口に回す。自動ドアの先から流れ込む冷気を浴びながら、職場へと戻る。

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情景集 鹿羽根ダヨ @shikabane-dayo

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