第21話:10分間

「もういい、お前の話を聞いていると虫酸が走る。」


犬飼は鬼頭の話を聞き、苛つき出していた。


「あなたのやっていることは自分勝手な欲望のためで決して『正義の執行』なんかではない。」


桃谷の言葉に鬼頭の顔から笑みが消えた。


「なるほど、君たちにとって正義とは何なのか見せてもらうよ。」


鬼頭は三人の方を見ながら続けた。


「ここのシステムには警察の機密データが入っている。」


「そこには2年前、警察が鬼の事件を隠蔽したという証拠データも残っている。」


「本当か!?」


犬飼の叫びに鬼頭は再び不気味な笑みを浮かべた。


「それでは取引をしようではないか。」


「私を見逃してこの島から出してくれれば、このデータを君たちに渡そう。」


「私を捕まえるのであれば、この証拠データを消失させる。」


犬飼は鬼頭を睨みつけた。


「何だと!?」


鬼頭は得意気な表情で話を続ける。


「それに一つ君たちに良いことを教えてあげよう。」


「2年前の鬼の事件の隠蔽は警察本部が私の指示に従って行ったものだ。」


三人の表情が曇った。


「信じられないだろうが、奴らは私の指示に従って鬼の事件を隠蔽したのだ。」


「奴らは私の前に屈したのだ。これほど愉快なことはない。」


桃谷は二人に語りかける。


「鬼頭の言っていることがどこまで本当かは分からない。」


「信用しなくても良いと思う。」


「とにかく今はデータの保存と鬼頭の逮捕に全力を注ごう。」


二人は桃谷の提案に頷いた。


「鬼頭さん、僕たちの正義は市民の安全を守ることにある。」


「そのためにはこのデータを保存し、あなたを逮捕するという結論は変わらない。」


「僕たちの正義の信念に則って。」


桃谷はポケットからきびだんごの御守りを取り出して力強く掲げた。


「ハッハッハ」


鬼頭の笑い声が室内に響き渡る。


「ご苦労なこった。わざわざこんな絶海の離島まで隠蔽データを抹消しに来るとはな。」


「今や私は『鬼』も『警察組織』も支配しているのだ。」


「せっかくここまで辿り着いた君たちにはチャンスを与えてあげたのにな、残念だよ。」


鬼頭はさらに三人を嘲笑う。


「このリモコンのスイッチを押せば、10分後に2年前の鬼事件の隠蔽データは消失する。」


「君たちの活躍により事件の真相は闇へと消え、私が事件に関与した根拠などなくなるのだよ。」


「ちくしょう!させるか!」


犬飼が鬼頭を止めようと身体を動かした瞬間、今まで仁王立ちしていた鬼の剛羅が棍棒を振り上げる素振りをした。


(ダメだ。まともにいくとやられる…)


犬飼はその場から身動きを取れなくなった。


「さらに君たちに教えておいてあげよう。君たちに私は捕まえられない。」


「どういうことだ。」


犬飼が剛羅を牽制しながら、鬼頭の言葉に反応する。


「私は逃走ルートを確保している。」


鬼頭はそう言うと自分たちが先程まで居た部屋の扉に目線をやった。


「入口は一つだけではないんだよ。」


犬飼は鬼頭の目線が彼らの部屋に向けられていると察した。


「あの部屋に裏口でもあるのか!?」


「さぁ、どうだろう。剛羅、こいつらをこの部屋に通すなよ。」


「こいつらは人間様ではなく、悪魔の化身だから場合によっては躊躇なく襲え。」


「それと…」


鬼頭は猿渡に目を向けた。


「登。忠告しておく。」


「お前は私と同じだ。どんなに今は必要とされていたとしても、やがて組織はお前を切り捨てる。」


「組織が必要なのは猿渡登という人間ではなく、お前の技術だ。」


「ただそれを利用したいだけだ。いずれお前にも私の気持ちが分かるときがくる。」


鬼頭はそう言うと持っていたリモコンを高々と掲げピッとスイッチを押した。


『10:00』


スイッチが押されると、三人の目の前にある鬼システムのモニターにカウントダウンが表示された。


「じゃあな、天才ハッカーくん。いや、師との契約を裏切った裏切り者、猿渡登!」


鬼頭はそういうと奥の部屋の扉を開け、闇の中へと消えていった。

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