第15話:鬼ヶ島上空と最終決断
桃谷は一瞬の猿渡の表情を見逃さなかった。
「どうしたんだ、猿渡くん。」
猿渡の顔が一瞬凍りついた後、彼は自嘲するかのように微笑みながら桃谷に言った。
「ハッキング失敗です。」
「プロメテウスのシステムにはハッキング対策が施されています。」
「プロメテウスのシステムのセキュリティ対策は完璧です。」
「この僕ですらシステムに侵入できません。」
猿渡の笑みからは悔しさも滲み出ていた。
「もしかしたら、逆探知されかねないので痕跡は消しましたが、これは人間の仕業という方が自然ですね。」
「あの鬼を完全に信用している訳ではありませんよ。」
その時、ヘリの前方、遠くの方に小さな影が見えてきた。
「前方、座標位置あたりに島のようなものが見えます。」
雉屋の報告を受けた桃谷は犬飼へ連携をとる。
「ゴンさん、補給船はあとどれくらいで座標位置に到着しますか?」
「約3時間後に到着予定だそうだ。」
犬飼からの報告を聞くと桃谷は雉屋に指示を出した。
「雉屋さん、このまま鬼ヶ島上空を通過して下さい!」
「まずは上空から様子を伺いましょう。」
「ゴンさんたちが約3時間後に鬼ヶ島に到着するので、その時に合流しましょう。」
「了解!」
ヘリは一定の速度を保ったまま島に向かっていく。
ヘリの中は鬼ヶ島が近づくにつれて緊張感が増していた。
連続強盗事件をきっかけに始まった鬼退治。
しかし、温羅たちとの出会いにより人間の鬼の支配という鬼ヶ島での真実が明らかになった。
果たして温羅の証言が真実なのかどうなのか。
三人の目の前に小さな島が広がってきた。
島の周辺はゴツゴツとした岩が敷き詰められている。
岩場から少し離れたところに船が見える。
そして島の中心には温羅の言葉どおり森林が生い茂っていた。
桃谷は温羅の証言どおりであったことに胸を撫で下ろした。
そして、すぐにプロメテウスの船着場のある浜辺の位置の確認を行う。
「雉屋さん、浜辺は座標位置の東側になるかな?」
「はい、そうです。」
桃谷は浜辺の位置の確認を行うとすぐさま補給船の犬飼たちに鬼ヶ島の状況を伝えた。
「ゴンさん、こちらは間もなく鬼ヶ島上空にさしかかる。」
「温羅さんの言うように島の東側に船着場がある浜辺があり、島の中央には森林がある。」
「こちらはいったん島の上空を通り過ぎる。後ほど補給船と合流する。」
「まもなく鬼ヶ島上空に入ります。」
雉屋の言葉に桃谷は改めて空の上から鬼ヶ島を眺めていた。
森の中までは見えなかったが、ここにプロメテウスと名乗る人物がいるということだ。
桃谷はきびだんごの御守りを強く握りしめた。
ヘリはまるで関係がないと言わんばかりに島の上空をそのまま通り過ぎた。
システム解析ができない今、鬼ヶ島への上陸も慎重にならざるを得なかった。
しかし、鬼ヶ島の存在の確認という一つの任務は果たせたのだ。
鬼システムへのハッキングが失敗し、大人しくなっていた猿渡が口を開いた。
「鬼ヶ島のシステムは完璧に防御されている。」
「須佐本部長からも忠告されましたが、僕たちの役目は鬼ヶ島の存在の確認と情報収集です。」
「あの親子鬼を連れて帰れば、警察も動くはずです。」
「僕もシステムの構築者には興味がありますが、わざわざ危険を冒してまで上陸する必要はありますか?」
桃谷は猿渡の問いかけに一瞬戸惑った。
しかし、一呼吸置いて答えた。
「猿渡くん、君の言うことはもっともかもしれない。」
「でも、温羅さんの証言の裏を取らないといけないしね。」
猿渡は桃谷の答えに笑みを浮かべた。
「そうですね。心配しなくても大丈夫ですよ。」
「あくまでも桃谷さんの意思を確認したかっただけなので。」
「痕跡は消しましたがシステムへのハッキングも気付かれている可能性もありますし、鬼ヶ島へ行くには『今』しかないと思います。」
三人は笑顔を浮かべながらも、鬼ヶ島への上陸に向けて緊張感が漂っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます