第7話:作戦開始と招かざる客
『みちくさ食堂』で会った翌日、桃谷、犬飼、猿渡はゴの犬飼の訓練所の部屋に集まり、鬼退治について話し合っていた。
犬飼は鬼の目撃情報について語った。
「鬼の最初の目撃証言があったのは2年前のことだ。」
「強盗事件の目撃者は鬼の仕業だと言った。」
2年前のことだが犬飼は今でも鮮明にそのことを記憶していた。
「最初は目撃者が何を言っているのかと思ったよ。」
「しかし、俺には嘘をついているようには思えなかった。」
犬飼の言葉に力がこもる。
「そして今度は逃げる鬼を後輩と一緒に目撃した。」
「アイツは正義感の強い人間だったから、鬼を追いかけて死に至った。あれは本当に鬼だった。」
犬飼の表情から怒りか後悔かは分からなかったが、彼の両手は力強く握りしめられ震えている。
「これを放置すれば人々の暮らしが脅かされる。」
「だから、早くこれを公表して町民の安全の確保を俺は訴えた。」
「だが、奴らは熊による事故として片付けた。」
「強盗事件にしても事件性はなく獣の仕業だとほざきやがった。」
ドンと握られた拳で机を激しく叩く音が訓練所に響き渡る。
「まぁ鬼が出たなんてそうそう言えたもんじゃないですしね。」
猿渡は落ち着いた口調で言った。
犬飼は少し冷静さを取り戻していた。
「その後は鬼の目撃情報もなく、年月が経った。」
「俺ですら鬼などといったものは勘違いで本当に獣か何かの仕業なのかと思うくらいだったよ。」
「俺は通常任務に戻り様々な事件を捜査する中で海上保安庁でシステムトラブルがあったとの情報を入手した。」
「そこで海上保安庁の雉屋という女性パイロットに話を聞くことがあった。」
雉屋の話になると犬飼の表情は和らいでいた。
「トラブルは軽微なものだったため問題はなかったとのことだった。」
「しかし、雉屋は一隻の船に鬼が乗っているのを目撃したと証言していた。」
犬飼は意味深な表情となった。
「そして彼女は言った。海の向こうにはきっと鬼ヶ島があるに違いないと。」
桃谷は深く頷いた。
「なるほど。確かに現実味の欠ける話ではありますね。」
「ゴンさんの言うようにしばらく鬼による被害はなかったもののここ数日で鬼による被害が再び報告されはじめ、この相当な被害だと聞いています。」
「我々所轄の人間も厳重警戒しているところではあります。」
桃谷の報告が終わると猿渡は口元に手をやり、考え込んでいた。
「そもそも鬼ヶ島があったとしてどうやってそこから鬼がこの離れた異国の地まで来れたのだろうか。」
「海上保安庁のシステム障害と何か関係があるのか。」
そんな話をしていると訓練所の扉が開く音が聞こえた。
男の声が聞こえてきた。
「すみません、犬飼さんはいらっしゃいますか。」
犬飼は二人を部屋に残したまま部屋を出て男に声をかけた。
「どちら様ですか。…お前は」
「ご無沙汰しています。犬飼さん、いやゴンさん。」
「警視庁捜査一課のお偉いさんがこんな山奥に何の用だ。」
目の前には金城捜査第一課長が立っていた。
「警視庁捜査一課の刑事部長に代わってあなたにお話しがあってきました。」
「俺はお前ら警察に話しなどない。とっとっと帰りな。」
金城課長は犬飼のあしらう言葉などなかったかのように話を続ける。
「ゴンさん。ここ最近、連続強盗事件が多発しているのはご存知ですよね。」
「2年前、あなたは鬼を目撃したと言っていました。今回も鬼の目撃情報が寄せられています。」
「捜査情報をペラペラと。だから何だというのだ。」
金城課長はあしらう犬飼に食い下がる。
「今、警察本部は対応に追われています。」
「ゴンさんの目撃情報と関係があるかわかりませんが、もしかしたら今回の事件と何か関係があるかもしれない。」
「その時の状況を警察本部で聞かせていただけないでしょうか。」
犬飼と金城課長のやり取りを耳にした、桃谷と猿渡も部屋から出てきた。
「警察もついに鬼退治に動き出したということですか。」
猿渡は訪問者が警察だと知り、挑発的な態度をとる。
「君たちは?」
「僕は猿渡といいます。」
「警察があまりにも動くのが遅いからどうやって鬼退治をしようかと思案していたところです。」
「そしてこちらは桃谷太郎さん。桃ノ木署の巡査部長です。」
金城課長は桃谷を凝視する。
「私は桃ノ木署巡査部長の桃谷太郎と申します。」
「我が桃ノ木署の管轄内で発生している強盗事件について聞き込みをしていました。」
「桃谷巡査部長。ご苦労様。」
「先程、そこの彼、猿渡さんが鬼退治と言っていたが、君はこの事件は鬼が関わっていると思うのか。」
桃谷は力強く答えた。
「はい。今回の事件でも鬼の目撃情報が多数寄せられています。」
「信じがたいことではありますが、凶暴な鬼が関与していると考えています。」
金城課長は笑みを浮かべながら桃谷に言った。
「フッ。君も警察官ならもう少しマシな考えをした方が良い。」
「どういうことですか。」
「君が知る必要もないだろうが、鬼などいないということだよ。」
「なるほど。それではなぜゴンさんに会いに来たのですか。」
「こちらにもいろいろ事情があってね。黙っておいてくれないか。」
「私は今日はゴンさんに用があって来ているのだ。」
金城課長は二人に向けていた視線を犬飼の方に再び向けた。
「ゴンさん、頼む。捜査に協力してくれないか。」
犬飼はここぞとばかりに笑みを浮かべ、金城課長に向かって言った。
「分かりました。金城捜査第一課長。」
「だが、俺が捜査に協力するためには一つ条件がある。」
金城課長は犬飼のほくそ笑む姿に緊張を隠せなかった。
「条件…。分かりました。どのような条件ですか。」
犬飼は笑みを深め、金城課長の耳元に顔を寄せた。
そして、金城課長は深く息を吐き出した。
「仕方ありません。できる限りのことはやりましょう。」
犬飼は桃谷と猿渡の方を振り返った。
「それじゃあ、行こうか。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます