眼鏡犬

短編

簡単に言おう。

足が欲しい。

感嘆だろう。

足が欲しい。それだけなんだ。願う相手は自分しかいない。独り立ちしたのだから、両親にはこちらから何か贈るべき。友人はいる。恋人や結婚相手はいない。では、友人にってどう言うんだ。

足が欲しいです、この生首に。

身体付きの友人はどうするだろう。困惑、爆笑、本気で悩むのか。友人だからこそ、悩むんじゃないか。重たく受け取られてもイヤだ。軽い、軽い気持ちなんだ。

足が欲しいって、ちょっとワガママというか。

結局、この思いつきは自分で叶えるしかない。誕生日はもう終わった。クリスマスはもうそろそろ。サンタさんお願い、とネットを探して、諦めた。こう、グッとくる足がなかった。値段の問題もある。ズボン一枚買う感覚なんだよ、こっちは。

ピンポーン。

アパートの呼び鈴が鳴る。今日は友人二人とはやすぎるクリスマスパーティー。十二月どうしたって忙しいとわかりきってるから、だけど、どうせまたやるんだろうなクリスマスパーティー。飲めるきっかけは、このメンバーなら何度あっても楽しい。

スマホ操作で鍵を開けると、すぐにドヤドヤやってくる足音。

眼鏡のカオルと茶髪のケイ。どちらも身体付きで、大学からの付き合いだ。

「ほらケーキ買ってきたぞ」

「コンビニのチキンとかワインとか」

「テキトーに座って、床しかないけど」

わいわい集まってテーブルに次々乗せられていく、ジャンクフード。ピザ、チキン、ケーキ、ワイン、チーズ、サイダー。紙の皿やコップがあるのに、ウェットシートがないのが二人らしい。

「あとこれ、かぶって」

クリスマス〜と取り出された、サンタ帽子にトナカイのカチューシャ。それに、暖炉に身体突っ込んでるサンタの帽子。つまり、足が飛び出してるわけで。

足。

足があった。

思わず凝視してると、ケイがこれがいいのかと言い出してかぶそうとしてきた。そこへ飛び出すカオルの一言。

「スケキヨっぽくない?」

スケキヨ。知ってる。見たことないけど、あれだ白い足と白い顔の。

「待って、それなら」

持ち上げられて、足が飛び出した帽子の前へ。無抵抗の生首に、かぶせられるは白い皿。

爆笑する二人。カシャカシャ撮影音。そうだよな、スケキヨ。お前は足があるのに顔がないんだよな、あれどうしてあのポーズになったんだ。何をスケキヨは探してたんだ。こっちは足だ。

「なぁ」

「あっごめん」

「ふざけすぎた」

「違う違う。写真送って。足、欲しかったんだよね」

三人で大爆笑。写真を見せてもらうと足がある生首の顔は、スケキヨには見えない。皿のまんまだからな。それに足って頭の両側から生えてないだろ。誰かがトナカイの角見たいだって言い出して、また大爆笑。

それで、まぁなんか満足しちゃったんだよね。足が欲しいっての。

なのに二回目のクリスマス。渡されたのは手作りの、両生足付きカチューシャ。二人からのクリスマスプレゼントとして。だから最高のなんだよ、この二人。

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