『氷雪の薔薇』への断罪

 会場内は一瞬の静けさを見せた後、ざわつきはじめる。


 驚きと、困惑の声が聞こえてくる。


 それも当然だろう。王太子が連れているのは侯爵家の養女になったとはいえ、春先までは平民であった少女なのだから。


 (お父様も、知らされてなかったみたいね)


 父であるブロッサム伯爵や、この国の宰相であるスノードロップ公爵の顔色が変わる。


 「王太子殿下、これはどういうことですかな?」


 スノードロップ公爵が低い声で尋ねれば、オータムナル王太子は片目をすがめた。


 「スノードロップ公爵令嬢とブロッサム伯爵令嬢は王太子妃に相応しくないと判断し、今日をもって候補から外すこととなった」


 「……っ」


「陛下や王妃殿下も同意を得ている、意を唱えることは王命に背くと思え」


 これまでの流れを考えてみれば、予想は出来た事だ。


 悠然と腕を組み、王太子は口端をゆがませた。


 「フン、スノードロップ公爵令嬢は病床で余命幾許いくばくもないと聞く。

 病に倒れた事は気の毒だが、それも自業自得であろう」


 「……自業自得、と言いますと?」


 「彼女は他の令嬢を扇動し、聖女リコを虐めていた。

 お前の娘の行った悪虐は全てリコから聞いているぞ、スノードロップ宰相!」


 公爵が驚愕に目を見開く。


 リコは王太子の腕にそっと寄り添い、悲しげな顔ではらはらと涙を流す。


 見方によっては辛い仕打ちを思い出して涙しているようにも見えるだろう。


 「そのような傲慢で冷酷な女を王家には迎え入れられん、よって候補から筈させてもらった」


 「ならば何故、このような場でおっしゃられたのですか!」


 スノードロップ公爵が怒るのも無理はない。

 病床の娘が晒し者にされて、その名誉が地に落ちんとしているのだ。


 公爵の怒りに触れて怯えたように震えるリコを背中に隠し、王太子は嘲るように嗤う。


 「お前達は狡猾だ、内々で穏便にしようものなら何をするか分からんからな。

 このセレモニーの面々に証人となってもらうとしよう」


 「ぐぅ……!」


 「元々私はあの女は生け好かなかったのだ。 口を開けば小言ばかりで私に楯突くような品のない……国政の手腕は良くとも、教育を誤るようではなぁ、宰相よ」


 王太子の言葉にくすりと扇子の影で笑うのはオスマンサス派の貴族達だ。


 厳格なスノードロップ公爵家の失態だ、彼らからすればこれほど美味しいものはないだろう。


 「驕りが有ったからこそ病という悪魔に取り憑かれたのだ!

 それで命を落としてもあの女の自業自得であろう!」


 己の正義に目を輝かせ、ここに居ない婚約者候補を貶める。


 嬉々として親友を貶めるその醜さが、ローラには許せなかった。


 「――王国紳士の風上にもおけないわね」


 胸に湧いた真っ直ぐな憤りは、氷のように冷たい声に乗ってローラの口からこぼれ落ちた。


 その声は王太子の耳にもしっかりと響く。


 正義に酔っていた橙の瞳が、ギョロリとローラの姿を捉えた。


 父の顔を一瞥した後、ローラがドレスの裾を揺らし一歩前へと進み出る。


 「……ゲルダ様は悪魔憑きなどではありません。 今も病と闘っておられる方に、そのような言い方は失礼です」


 会場中の視線が、ローラに集められる。


 静かな怒りを顕にするローラを、オータム王子は小馬鹿にしたように口端を上げる。


 「私に意見出来る立場か? 『風花令嬢』よ」


 そうして殺気すら籠った瞳で高らかに叫んだ。


 「フローラ・ローラ・ブロッサム! 貴様こそ、シーズニアの次期王妃に相応しくない!」

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