第46話 竹を発見
1階での探索・採集は一区切りついたので、2階に進むことにする。
本当はブドウとオリーブの実も収穫したいところなのだが、これらは少量だけとってもいまいち使いどころがない。今回は諦めて、王都から戻ってから計画を立てることにする。
「前回は1階を探索しただけで終わったから、ちょっと楽しみなんだよな」
「え、ジェイド坊ちゃんも初めてなんスか?」
階段にたどり着いて覗き込むと、奥から吹いてくる風が少し違う気がした。
「2階程度なら、そこまで大きな変化はないわよ。魔獣はちょっと大きくなるけれどね」
フリージアにしたがって階段を進む。階段を抜けると空気の違いを感じた理由がはっきりとわかった。
「一階より温かい?」
「ああ、言われてみるとそうですねぇ」
気温だけではなく、湿度も高い気がする。それに、1階よりも植物の数が大幅に増えた。
「ジェイド、この階では採集はする?」
「よほど珍しいものがあれば、ですかね。1階で十分すぎるほど今必要な物は……」
会話しながら周囲を見渡して、ジェイドは一瞬硬直した。
「すいません、ちょっとあそこに気になるものが……!」
断りを入れるや否や、見つけた物に向かって走り出す。
「ちょっと、ジェイド!?」
「あわわ、私たちも付いていきましょう!」
背後で慌てている声が聞こえるが、ジェイドはそのまま走り続けた。
「やっぱりこれ、竹、だあ……!」
竹林を前に驚嘆の声をあげたジェイドに、他の人達が追いついてくる。
「ちょっとジェイド! 急に走らないで頂戴!」
「びっくりしましたよぉ。この変な植物が気になったんですかぁ?」
「……ああ」
変な植物、そう、この世界に生まれこの国から出たことが無ければ恐らく見たことが無いであろう植物。竹、地球であれば温暖で湿潤な地域にしか分布せず、ヨーロッパには自生しない植物だ。ゆえにアジアをイメージする絵などでは登場頻度が高い植物でもある。
過去の領主の日記や王都の市場などを見る限り、この国にはアジア圏の植物の類は存在していないのだ。
「本当に変な植物ね? 随分真っすぐに伸びているわ。トールは何の植物か知っている?」
「私も初めて見る植物です。外国の商品が入ってくる国境の市場にも行ったことがありますが……」
他のメンバーがわいわいと話している内容を聞いて、やはり誰も知らないのだと確信する。剣を抜いて竹を一本斬ると、よく知る竹のように中が空洞になっていた。
「うわ、何ですかこれ!? 植物なのに中身空っぽですよ!?」
ジャクソンが居るので竹の説明をするか一瞬迷ったが、ジャクソンならばジェイドを裏切らないという確証があるから、今日連れてくるメンバーに選んだのである。ジェイドは腹をくくって竹の説明をした。
「これは竹と呼ばれる植物で、恐らくこの国においては他の場所では育ちません。普通の植物と違って真っすぐにそだつ事、そして器に加工しやすいこと、成長が早いことが特徴です」
ジェイドの様子を見て、フリージアとアザレアは『竹をジェイドは前世で知っている』と確信したらしい。
「そんなに慌てて見に来たということは、何か役に立つ植物ということなのかしら?」
「そうですね、まず加工性の良さが一つ。見ていてくださいね」
切り倒した竹から一節分切り取り、縦に割る。
「このように中が空洞で、節と節で区切られています。ですので切り出した物を乾燥すればそのまま器として使うことが出来ます」
ジェイドが割った竹を差し出すとフリージアとアザレアが片方ずつ受け取った。
「本当ね。加工もほぼいらないなら、安価な器として売れそうだわ」
「これ縦に割ると皿の代わりになりますけど、横に切ればコップにもなりますねぇ」
「その通り。それと、割らずに小さな穴を開けて栓をすれば、水分を持ち歩く器にも出来ます」
「あっ、それは確かに売れそうですぅ!」
ガラスや陶器は高く、金属で密封容器を作る技術もまだこの世界にはない。樽は一応つくられているが精度の良いものはやはり高い。結果、比較的安価に水分を持ち歩くのには革袋が使われているが、革袋からは少しずつ水分が染み出して蒸発してしまうのだ。
「それから、器として使うのではなくとも、繊維が一方向なので工芸品を作るのにも色々役に立ちます」
ジェイドは器のように切った部分とは別に、長めに竹を切り取り、さらにその竹を何度か縦に裂いた。
「これ、丈夫な上にしなるんですよ。ツタ植物を切ってきてほぐして籠を編むより、丈夫で形のいい籠が作れます」
竹ひごとかしたものをびよんとしならせて見せるが、そちらの方はフリージアもアザレアもあまりピンと来ていないらしい。むしろトールの方が「成程……?」などとつぶやいている。
「まあこれは時間があるときに加工を……」
そう、ジェイドが言いかけたときだった。
「え、え? あれ?」
ジャクソンが戸惑ったような声をあげる。何かあったのかとそちらに視線を向けると。
「な、何!?何スか!?」
目を向けた時には、ジェイドの目線の正面当たりにジャクソンの腹があり。
「じぇ、ジェイドぼっちゃーん!!」
皆が呆然としている間に、ジャクソンは数m上まで釣り上げられたのだった。
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