第5話 無能に宿る不屈の心
視界の先、ゴブリン・キングが
まるで――喜びと残虐性が混ざり合うような。
その圧倒的な
俺は体の奥底を刺すような恐怖を振り払うように、唇を強く噛み締めた。胸の奥で心臓が
目の前に立ちはだかる恐怖に向き合うため、荒く息を吐き出す。アドレナリンが神経を支配し、痛みも恐怖も、一瞬の間だけ意識の外に消えた。
その
だが――
胸が締めつけられる....呼吸が荒い....頭の奥がぼんやりと重い。
耳に遠く鈍い
まるで.....死刑宣告の
「……っくそ……!」
俺は震える腕を伸ばし、
立てる――まだ、戦える。
体全身が悲鳴を上げている。呼吸も荒く、胸の奥が焼けるほど痛い。けれど、心だけは折れていない。――折れられない!
「行くぞ……ッ!」
足に残った力をすべて込め、一気に地面を蹴る。視界を
ゴブリン・キングの
斬撃――! さらに斬撃――!!
俺の攻撃は止まらない。剣を振る度に次の一太刀が湧き上がってくる。
「まだだッ!!!!」
一撃.....また、、一撃.....
心臓の鼓動さえ斬りつける勢いで、俺は―――畳みかける―――重たい手応えが腕に伝わるたびに、焼けるような痛みも忘れさせてくれる。
満身創痍の俺を動かしているのは体に刻み込まれた鍛錬の記憶。何百回も繰り返した動作が、俺の体を突き動かす。
何十回と反射のように剣を振り抜くたび、肉を裂く手応えが確かに掌へ戻ってくる。深く刃が食い込むたび、返り血が熱を帯びて
―――入ってる。
間違いなく、斬り込めている.....けれど――どうにも、胸の奥がざわつく。
何か―――おかしい......
その違和感は、斬るほどに膨らんでいった。ゴブリン・キングは、まるで
むしろ――楽しんでいる。
そんな狂気すら感じられた。
俺の斬撃が降り注ぐ中、奴はただ飽きた観察者のように俺を見下ろしているだけだった。そして、ゆらりと口元が吊り上がっていく。ねっとりとした、悪意の塊みたいな笑み―――
「人間は……哀れだな。」
低く響いた声は、
意味は分からない....だが、その“余裕”だけは痛いほど伝わってくる。
そして――――次の瞬間。
ゴブリン・キングの全身が淡く光を
「っ……!」
斬り裂いたはずの傷口が閉じていく。血も跡すら残さず、まるで最初から何もなかったかのように。
「うそ、だろ……」
内側から骨まで凍りつくような、凄まじい
これだ――これが、俺の感じてた違和感の正体。
あいつは――わざと斬られていた。俺の必死の攻撃を、まるで暇つぶしの“遊び”として扱っていたのだ。その事実を知った瞬間、俺は思わず後ずさる。体が勝手に
混乱が頭を支配する。
あの光――確かにスキルの光だった。
モンスターがスキルを使うだと……?
そんな話、聞いたことがない。
信じられない――胸を押し潰す恐怖、怒り、絶望、そして理解できない現実。ありとあらゆる感情が、俺の脳内で渦を巻き、理性を押し流していく。 そんな俺をゴブリン・キングは冷たく見下ろしている。そして、ゆっくりと、低く響く声で口を開いた。
「――“超回復”…… キサマにわざと斬られた。これを見せるためダ…… 」
その言葉を聞いた瞬間、俺の顔が無意識に歪む。絶望が、胸を締め付け、息まで重くなる。
俺の顔を見たゴブリン・キングは、大きく口を開き、
「そのカオ…… そのカオだ!ニンゲンの絶望したカオ…… ソレを眺めながら壊シていくのが……タマラナイ!」
怒りが沸き上がる。だが、それ以上に――圧倒的な絶望が全身を覆い体が
―――《真眼》
俺は、その事実を確かめるように、絶望を突き返すように、スキルを発動させた。
絶望に押し潰されそうな胸を振り払い、俺の視界に半透明のステータス画面が浮かび上がる。
【種族】:ゴブリン・キング
【体 力】:480【攻撃力】:330
【防御力】:210 【俊敏性】: 80
【魔 力】:120
【スキル】
・超回復 ー 任意で全ての傷を治す
【加護】
・攻撃増化
・体力増化
目の前に映る「超回復」の文字が、確かに確実にその存在を主張している。
だが、魔力には限界がある。
あいつの魔力が尽きるまで、何度でも……何度でも……まだ、勝機はあるはずだ。
そんな希望は、一瞬で吹き飛ばされる。
ゴブリン・キングの足が、俺の
身体が、言うことを聞かない――立ち上がれない、もう、動けない……。
俺はその場に倒れ込み、視界が揺れ、呼吸すらまともにできない。体中が痛みに支配され、抵抗する力さえ残っていなかった。その時――悟った。スキルがあっても、なくても、奴には到底敵わない。力の差が、桁違いすぎるのだ。
そんな俺の全身の力が抜けた瞬間、ゴブリン・キングの巨大な手が俺を掴んだ。まるで玩具のように、俺の体は軽々と
「可哀想だな……無能な人間は」
ゴブリン・キングの瞳は、
俺に、スキルが無いことを。
戦う力が備わっていないことを。
俺は無意識にステータス画面を開いていた。――半透明のステータス画面。そこに刻まれた《超回復》の文字。
まるで俺の心を
気づけば、俺は手を伸ばしていた。触れもしないと知っているのに。ほんの一瞬でも、自分にも届くと錯覚してしまったのかもしれない。
スキルさえ、あれば......
たった一つ、それだけで世界は変わる。実力の差が埋まり、戦局すら
初めてだった。
自分の運命を本気で呪ったのは。
もちろん、ステータス画面に実体なんてない。俺の指先は空を
それでも、
悔しい……。
そんな俺を、ゴブリン・キングはつまらなそうに見下ろすと――壊れた
「がはっ……ッ!!」
鈍い衝撃とともに肺の空気が強制的に吹き飛ぶ。背中に焼けるような痛みが走り、視界が一瞬、真っ白に弾けた。
動かない.....息すらまともに吸えない.....。
地面に沈んだまま、俺はもう――抗う理由すら見失っていた。心のどこかで細く残っていた火が、ゆっくりと静かに消えていく。
ゆっくりと目を閉じる――――暗闇の奥で父との思い出が、
幼い頃、叱られた日のことも、笑い合った日のことも、剣を握った手に
――諦めるな。
父の声が、まるで今ここで俺を励ますかのように耳元で響いた。弱りきった心に、ほんのわずかな熱が戻る。
その瞬間――――《超回復》。
頭の奥で、誰かが
この、見覚えのある光――再生の光が痛みと絶望を押し流すように、体を満たしていった。
じわり、と身体の奥に熱が広がる。折れたはずの骨が繋がり、千切れそうだった筋肉に力が戻っていく。
さっきまで全身を焼いていた痛みが――嘘みたいに消えていく。
「……っ、は……!」
息が吸える。
体が………………動く!!
俺は、ゆっくりと――地面を押して立ち上がった。まるで、世界が再び色を取り戻すように――
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