第4話 無能に迫る不穏な陰
俺は村長の肩をそっと持ち上げる。
腕の傷がじんわりと熱を帯び、内側から
痛みよりも――村長を助けることのほうが、はるかに重い。
「村長……もう少し、頑張って……」
村長は意識こそ
村長を抱え、外へ出ようとしたその時――家の入口から、荒い足音が二つ駆け込んでくる。
「村長!? ……ッ、うそだろ……!」
「お、おい……血が……!」
入ってきたのは二人の冒険者だった。
冒険者協会で何度か顔を合わせたことがある男たちだ。だが、俺と村長の姿を見た瞬間、彼らは驚愕と困惑の入り混じった表情で目を見開いた。
そして、俺を指差し――
「「グレイノース! 何でここに!?」」
その声には、驚愕だけじゃない。
“なぜ無能力の少年が戦場の中心にいるんだ”という、混乱と
胸がチクリと痛む。そう思われるのも当然なのかもしれない。
息切れで声が掠れる中、必死に状況を説明する。
「……村の……外れで、稽古してて……っ。そしたら、煙が見えて……燃えてるのが……!」
言葉が途切れそうになる。喉は戦火の煙を吸ったかのように焼けつき、肺はまだ先ほどの死闘の続きを求めるように荒くうねり続けていた。
「それより……村でいったい、何があったんだ……?」
俺の問いに、二人のうち年長の男が、青ざめた顔でゆっくりと口を開いた。
「……突然だ。何の前触れもなく、大量のゴブリンの群れが村を襲ってきた。およそ……数百匹だ」
数百.......
その数字が告げられた瞬間、胸の奥で何かが崩れ落ち、思考が白く塗りつぶされた。
一体だけでも死に物狂いだった。その怪物が今は数を
もう一人の男も、唇を震わせながら言葉を継いだ。
「今、冒険者協会が緊急避難場所になってる……。子どもも、老人も、皆そこに逃げ込んでる」
まるで“お前も行け”と
――そんな声が聞こえた気がした。
だが、胸の奥が拒絶した。目の前で泣き叫ぶ村人がいて、踏みにじられる家があり、助けを求める声がある。
その現実を前に、安全な場所へ隠れるなど――できるわけがない!
俺は剣を握り、
「どうするつもりだ!奴らの中には“ホブコブリン”や“ゴブリン・キング”もいるんだぞ!」
その言葉は脅しではない。
絶望を語る現実そのものだった。
だが、それでも。
「確かに、俺には……力はないかもしれない!」
振り払うように叫ぶ。胸が焼けるほど必死に。
「だけど……だけど、目の前の危機を放っておけるわけがない!」
男の手を強く振り解き、俺は駆け出した。
炎の赤が夜空を照らし、風には血と灰の匂いが混ざっている。家が燃え
「……くそっ……!」
足が止まらない。止まる理由もない。
周囲から、引き裂かれるような悲鳴や叫び声が響いてくる。泣き叫ぶ声、助けを求める声、そして何かが砕ける音――。
俺は耳を澄ませ、その声の方向へと駆け出した。
助けなければ――誰かを。
どれだけ無力でも、この手で――誰かの“今”だけは、絶対に掴めるはずだと信じて。
目の前に広がっていたのは、三匹のゴブリンに一人の男性が押し倒される光景だった。
俺は踏み込む足に力を込め、剣を強く固く握りしめる。
さっき倒したゴブリンの感覚が、まだ鮮明に体に残っている。
まだ、やれる――。
その感覚を
俺の剣が最初のゴブリンの胴を
肉を斬り裂く鈍い感触と、仲間の悲鳴に混じる呻うめきが、全身に熱を帯びた緊張を走らせる。
倒れた影をよそに、動揺したもう一匹の目が瞬間的に揺らぐ。
胸元へ
ゴブリンは地面に崩れ落ち、冷たい血が土に浸み込む。
俺は倒れる男性に手を差し伸べる。
男性は俺の手を掴み、震える声を
「ありがとう……」
その瞬間、周囲の瓦礫が
何か、来る――直感が全身を駆け抜けた。
次の瞬間、背後から低く
倒れかけた家屋の
村全体が恐怖に凍りついたかのように、冷たい気配が全身を包み込む。
「まだ、人間がいたとはな……」
視線を向けると、そこに立つのは10メートルはある巨大なゴブリン。
―――圧倒的な存在感を放っていた。
「ホブ……ゴブリン……?」
俺は思わず声にならない声を
だが、その姿は教本で見たホブコブリンの比ではなかった。10メートルを超える巨体は、筋肉が盛り上がり、全身を覆う鱗は硬く、まるで石の塊のように
――ゴブリン・キングだ。
俺は声に力を込め、男性に告げた。
「早く逃げろ!俺が時間を稼ぐ!冒険者協会が避難場所だ!」
迫りくるゴブリン・キングの圧倒的な気配に、周囲の瓦礫が
男性は目を見開き、恐怖と戸惑いの入り混じった表情で声をかける。
「君は……?」
優しい眼差しが俺に向けられる。その視線の温かさに胸が痛む。
俺は静かに剣を握り直し、深く息を整える。指先まで力を込め、刃先に全神経を集中させる。
「大丈夫だ!俺もすぐに行く!」
男性は理解したようにうなずき、震える足を必死に動かしてその場を離れる。
その巨体から放たれる凶悪な気配――村全体の空気が重く歪む。
まるで見えない手で胸の奥を掴まれるようだった。
遠くにいるはずの家々も……木々の葉先も……すべてがその存在に押しつぶされそうなほどの―――威圧感。
自然と足がすくむ。
息が詰まる。
心臓の鼓動だけが耳に響く。
この圧倒的な力――目の前に立つものは、もはや人間の
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