第7話 決断を前に

 『【神話ミソロジー】骨格型魔導人形〈アバドン〉』は、俺にとって最強の武具でありながら、最大の失敗作でもあった。


 PACは、TCGトレーディングカードゲームでありながら、ストーリーモードではフィールド探索で得たアイテムを材料として、自由にカードを創れるという特徴を持つ。

 特に、魔導士のみが作成可能な魔導具の概念が存在し、それによって自作カードの幅が大きく広がっていた。


 様々なカード構成を考えるなかで、幾度も試行錯誤を重ねていくうちに、俺はひとつの閃きを得る。


 それは、装備系カードの仕様を調べていたときだった。

 数多あまたある通常の装備品とは別に、魔眼や義手といったも装備カードとして適用できることに気づいたのだ。

 装備カードであれば、移植手術のような面倒な工程すら当然のようにはぶけた。それこそ、本来なら移植自体が不可能なはずの、“全身の骨”すらも……。

 そう――もし、人型ユニットに骨型の装備品、それも脆弱ながらも特異な能力を持つ機巧人形オートマタとして融合そうびできるのなら、それは、かつてないほど強力な戦力になり得るのではないか、と……。


 しかし、ペンタモーフ・シリーズにおける機巧人形オートマタとは、戦闘用ではなく、高価で実用性の乏しい家具のような存在。

 一部のプレイヤーが、戦闘用の機巧人形オートマタの研究こそしていたものの、実用化の道筋はまったく出来ていなかった。だからこそ、俺はゲームにのめり込み、独自に試行錯誤を繰り返し続けた。


 ようやく最初の骨格型魔導人形を創り出したときには感動すら覚えたが、それでも成果としては到底満足できるものではなかった。


 失敗の原因は明白だった。素材のレアリティ不足。


 通常の機巧人形オートマタに比べ、必要素材量が圧倒的に少なくなってしまう骨格型は、スペックを補うリソース自体が足りていなかったのだ。


 この問題を解決する方法は、たった一つ。

 最高レアリティである神話ミソロジー級——それも、飛び抜けて高い性能がある代わりに凶悪なデメリットがあるを使用すること。


 呪われた素材を、その呪いごと“機構システム”へと反映させることで、通常の神話ミソロジー級の素材により創り出される機巧人形オートマタを、さらに凌駕する性能を得る。そんな妄執にも近い思考と試行の果てに、『【神話ミソロジー】骨格型魔導人形〈アバドン〉』は生み出された。


 結果として誕生した〈アバドン〉は、起動のために常時闇属性マナと土属性マナを消費し続け、遠距離攻撃手段を一切持たないという、極端ピーキーな仕様になってしまう。しかしその代償として、近接戦闘能力だけならば“最強”と言っても過言ではないほどに高まることとなった。


 ゆえに、俺はかつて有用だった固有スキルを捨て、必要コスト分のマナを得るためだけに[瑪那マナ精製]へと入れ替えたのだ。



 ◇



 俺とユキさんが落ちた階層から九つ上のフロア。

 現在、俺たちがいるのは、いわゆる“モンスターハウス”だった。


 目の前には、無数の魔物たち。

 その入り口に、俺はただ一人立っていた。


 迫り来る魔物たちへ、俺は足裏に砂を敷き詰め、滑るように距離を詰める。

 右手を貫手の形に構えると、砂——“蝗砂こうさ”が絡みつき、刃へと変じた。


 突き抜けるように放った一撃が魔物の腹を抉り、捻じれるように引き裂く。

 全身に蝗砂を纏いながら、蹴り上げた足が刀へと変じ、振り上げた拳を鈍器のように変える。そして、襲い来る魔物たちを次々に切り裂き、打ち砕いていった。


 砂塵が舞い、血飛沫が散り、俺の歩んだあとには、ただ屍だけが残る。



「お疲れさま、PQたん。〈アバドン〉の調子は大丈夫みたいだね」


 無事にモンスターハウスを突破した俺は、外で待っていたユキさんと合流する。


「だいぶ勘が戻ってきたかな。まあ、勘と言ってもゲームの、だけどね。レベルもようやく4、〈アバドン〉もレベル2になった。あとは、どちらのカードを使うか……」


 俺たちが落ちた最初の階層を隅々まで調べた結果、上への階段だけを発見。仕方なく進んでみたところ、レアリティこそ変わらないものの、敵の強さが少しずつ強くなっているのに気付いた。


 通常の階層型迷宮ダンジョンは、下へ行くほどに出現する敵が強くなっていく。

 だが、この迷宮はその逆。

 つまりは明らかなイレギュラーであり、地上へ戻るために何階登ればいいのかすら確信が持てなかった。


 そこで、新たに“名付け”が可能になるまで俺のレベルを上げ、それから新たなユニットを召喚することに決めたのだが——迷っているカードは二つ。



伝説レジェンド】トライアド・オブ・レプリカント Lv1、攻0 / 守0 / 魔4 / 命4、(火×3)(土×3)(風×3)、[ホムンクルス / 魔導士 / 英雄][纏装導器][火属性適正][召喚時:土属性および風属性の同一ユニットをそれぞれ1体ずつ召喚する]



 属性の異なる三体のユニットを同時に召喚できるカードだ。


 メリットは、俺とユキさんの属性と被らない戦力を複数増やせること。さらに元が一枚のカードだからか、名付けが一回分で済むこと。

 デメリットは、それぞれの骨格型魔導人形を召喚するのに、俺の魔力と生命力が回復するのを待つ時間が、かなりかかる点だ。


 それと人数が増えることで、飲食の問題がより深刻になっていく。

 水は、ユキさんが保有する封印札のなかに水属性の大魔法ソーサリーがあるので、まずは問題ない。


 しかし、食料が問題だった。


 ユキさんが結晶化させていた魔物を素材を得るために砕いてみると、その全てが溶けるように魔石へと転じた。その姿を見て思い出したのだが、ゲームでは階層型迷宮ダンジョンに現れる魔物からは、食料などを入手することができなかったのだ。

 できるだけ早く、迷宮を踏破する必要があった。そのためにも、戦力の拡充は必須だ。


 そこで、迷っているもう一つのカードがこれだ——



伝説レジェンド】光の御子の誕生、(光×3)(無×6)、[大魔法ソーサリー / 生誕][二体の英雄ユニット、もしくはプレイヤーを対象に選ぶ:対象にした二体の特徴を併せ持つ、光属性の英雄ユニットを創造する]



 俺とユキさん——魂なき女神の現し身の特徴を併せ持つユニットを生み出すことができる大魔法ソーサーカード。ゲームではほぼ確実に、膨大な光属性マナを自由自在に操ることができるユニットが誕生していた。

 俺が持つ最後の『神話ミソロジー』級の骨格型魔導人形のあるじ候補でもある英雄ユニットだ。戦力としては、先ほどのカードより強力でもある。


 だが、こうして生まれるユニットは、ゲームでは必ずだったのだ。

 カードとはいえ、現実になった今、子供を戦わせることに葛藤が生まれていた。


 ——どちらを選ぶべきか。


 俺たちは、迷っていた。

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