第14話 白豚君、アルバイト初日⑤ ~福利厚生は夢の藻屑、天国と地獄~


突然ですが、作者からのお知らせです♪


今回は夢オチです。

繰り返します。

今回は夢オチ。

それでは樋ノ下白都にとっての、とびきりの幸せな夢。ご笑覧ください。


では、本編! どうぞ!




▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥




 こ、これは幸せだ。至福だ。最高だ!

 無茶だと思ったが、言ってみるものだ。



 安西食堂、全メニュー降臨!

 つまり、安西満漢全席!



 ラーメン全品。

 炒飯は通常炒飯もカニ炒飯もエビ炒飯はもちろん、中華丼に天津飯。

 さらには餃子、肉団子、酢豚、唐揚げ、サラダ。お昼限定のタイムランチまで用意してくれるという大盤振る舞い。まるで夢みたいっ(作者注:夢です)


 え?

 これを全部、食べるのかって?

 そりゃ、勿論!

 当然!


 ばっちゃんの名にかけて!

 お残しなんてしませんよ!


 僕は食い道楽シップに則り、正々堂々と完食することを誓います。VTuber安芸白兎の中の人、樋ノ下白都!


 宣誓……キマまった。

 それにしても本当に夢みたい。

 


 この全部、食べて良いのだろうかと、思わず躊躇してしまう。でも当の大将は悪人顔で破顔。それが、なおさら怖い。


 悪役アンアン。彼は笑顔を作ろうとすればするほど、怖さが際立つのだ。引退後も、町内会のお子様達が泣いた回数は、三桁に登る。一時期、安西食堂は反社会食堂というひどいレッテルを貼られたことがあった。でも、おいしいは正義。そんな噂は、安西食堂の中華料理が。そして、美晴さんのスマイルが吹き飛ばしたのだった。美味いは正義!



 そんな安西食堂、満漢全席フルメニュー

 改めて言わせてもらおう。

 まるで、夢みたいだ!(作者注:夢です)


 バイトの特典、つまり福利厚生。改めて、このバイトは素敵すぎる。テンションが高まりすぎて天元突破。今なら、宇宙そらまで飛べる。


 大将と美晴さんに


「「どうぞ、召し上がれ」」


 なんて、手を差し伸べられたら。むしろ遠慮することが失礼に当たる。

 ご当地食い道楽系VTuber、安芸白兎としては全部、食す。完食する。それが安芸白兎、仕事の流儀というものである。


 でも、実は――。

 一番、気になっていたのは小籠包しょうろんぽうなのだ。


 そう、いつも炒飯や餃子に目がいってしまうが。極悪アンアンが、中国遠征で一目惚れしたという、小籠包。それこそが安西食堂、開店のルーツ。


 言うなれば、安芸白兎たる者が、お店のルーツを食していなかった。そして食にこだわる極悪アンアン。店内での撮影・取材はNGとなれば、どうしても優先順位は下がってしまう。


 そういうわけで。なやかんやで食べられなかった小籠包。今か今かと、蒸籠せいろから蒸気とともに、空腹を誘う匂い。そのダブルコンボが容赦なく僕に挑戦状を叩きつける。


 あの薄皮の下に隠された肉汁スープを想像するだけで、僕の唾液ヨダレが溢れる。

 僕は、その可愛らしくも小振りな小籠包を口に含んで――。


「やっ、にぃに。そこ、ダメだって、やっ――」

「へ?」


 舞夏のやけに色っぽい声が鼓膜を震わせる。

 そして、無情かな。

 真夏の夢は、ここで終わりを告げたのだった。





■■■






 窓を閉めていても聞こえる、セミの声。夏は恋の季節。彼らにとっては、生存をかけた夏でもある。

 まぁ、僕にはまったく無縁だけれど。

 と、柔らかい感触に顔をうずめていることに、ようやく気付く。



 ふにょん。

 擬音で表現すれば、そんな感じ。満漢全席は儚くも消え去った。あれ、夢だったのか。現実とは、かくも残酷だ。でも、せめて小籠包くらいは――そんなことを思う僕はやっぱり、まだ寝ぼけていたらしい。愛しの小籠包を一口で食べようとして――。



「んっ……やっ、やんっ。だから、ダメ。もう、にぃにのえっち」


 舞夏が甘い吐息を漏らす。その言葉で、ようやく僕は我に返った。


 思い出せ、樋ノ下白都。お昼ご飯を終えたら、鳴ちゃんが大あくび。つられて明比ちゃんまで欠伸の合唱。炎天下の中、ビオトープまで冒険したのだから無理もない。

 それならと、お昼寝の準備をしたことまでは憶えている。寝るまで絵本をせがまれて。読み聞かせをしていたら、満漢全席。あれ?おかしい。どうやら、途中で寝てしまったらしい。明らかにミイラ取りがミイラだった。


「にぃにのおっぱい星人」


 うぐっ。二重にダメージ。

 おっぱい星人認定されたこと。男子諸君なら理解できるだろう。何気に、女子からの言葉はハートを抉る。次点、むっつりスケベ。


 それに〝にぃい〟の呼び方。これ、明らかに今は家を出ている安西家長男、彗さんのことだろう。


 幼馴染みの高天原君。

 さらには、義兄の彗さん。写真で見た彗さんは、髪を茶髪に染めた見るからにイケメン。天使スマイルの高天ヶ原君とは、一線を画する。オオカミ少女なんて言われる舞夏だけれど、ラブコメのヒロインとして十分な素養がある。


(……僕も保育園の時は〝にぃに〟って慕ってくれた子がいたんだけどね)


 今さらそんなことを言っても遅い。あの子は引っ越しをしていなくなったし。ラブコメの主人公としてヒロインを牽引できる人間じゃないことは、僕が一番良く分かっている。

 そんなことよりも――。


「まだ、寝てて良いからね」


 そう舞夏から抜け出そうとした瞬間だった。彼女の細い手足が、ぎゅっと僕にしがみつく。


「……へ?」

「にぃに、離れたら

「あ、あの……勘違いしてない? 僕は彗さんじゃない、い――い゛っ?!」


 容赦なく、腕を回した舞夏が、フェイスロックで顔を締めてくる。胸の感触を直に感じて、男の子の本能。それがムクムクとち上がるの半分。締めつけられ息ができず目を白黒させて――生命バイタルの危機を感じること半分。そこまで極悪アンアンの娘として、プロレス技を極めなくてもと思ってしまう。


「ギ、ギブ! ギブ!」

「じゃ、離れたら駄目めっ


 寝ぼけて幼児言葉は可愛いけれど。舞夏の力は緩むことはない。

 締まる、マジで締ま――。






■■■






「……なにやってんの、お前ら?」


 冷たい眼差しを感じて、視線を向ければ。

 元プロレスラー、極悪アンアンに見下ろされた僕は――|BAD END【オシマイ】ルートを覚悟した。これも夢オチだったら助かるんだけどなぁ、そう思いながら目を閉じる。(作者注:現実です)








 部屋の冷房、効きすぎのようで――背筋がとっても寒くなりました。

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