【カクヨムコン11連載版】この夏、僕たちは「こい」という字をまだ知らない ~無自覚白豚王子はサバサバ系狼女子をとことん幸せにしちゃいます~

尾岡れき@猫部

第1話 白豚君はオオカミ少女宅で雨宿り



「どうしてこうなった?」

 そう叫んだ僕、悪くないよね?






■■■



 ――7月21日。夏休み6日目。



 夏祭りは、告白の場としてテンプレなのかもしれない。悪友が憧れの子に告白をするのだ。僕はそこまでをお膳立て。いつも通り、三人で夏祭りに行く。これで理彩さんは違和感を感じないはずだ。そこからは君の甲斐性次第。そう新汰の背中を押したんだ。


 それは良い。むしろ望むところだった。でも、問題はお祭を台無しにする豪雨スコールで。いよいよ、日本は亜熱帯気候に突入したようだった。


 折角、着飾った悪友達の浴衣が濡れてしまう。それはあんまりだ。僕は、新汰に折りたたみ傘を押しつけて撤退する。


 我ながら良いヤツだと悦には入る――余裕を豪雨は与えてくれなかった。


(降りすぎじゃない?!)


 バケツをひっくり返したような豪雨。そんな表現は生ぬるい。連続でタライを落としたかのような雨模様。かろうじて商店街の軒下に入った僕。硝子越しに映る自分を見やり、ゲンナリする。


 そりゃ水も滴る良い男――とは言い難い。だって【】というあだ名がつけられるぐらいだ。僕は〝ぼん〟〝ぼん〟〝ぼん〟の〝ぼん〟体型。体重99.8kgの重量感を肉肉しさが肯定してくれる。

 うん、自分で思いながら悲しくなってきた。


樋ノ下ひのした?」


 聞き慣れた声が、暖簾をとっくに降ろした大衆食堂から聞こえて、目を丸くする。

 茶髪、左耳にピアス、素行不良と言われた安西さんが、それこそ髪を濡らしたまま佇んでいる。


 ――安西食堂。


 そう書かれた暖簾がたてかけてある。と、間髪入れず声が飛び込んできた。


「……姉ちゃんの彼氏?!」

「マジ?」

「かれぴ?」

「おめでとうーっ!」

「あぅー」


 小学校就学未満と思われる幼児たち。それから一人は明らかに乳児で。そんな面々が僕を出迎えてくれたのだった。






■■■






「本当に散々だったね」


 安西さんはクスリと笑む。安西さんってそんな風に笑うんだと見惚れている場合じゃない――今はただ、貸してくれたバスタオルが有り難い。


「ん、うん……」

「うちもさ、屋台を出していたんだけど。でも、この雨じゃん。商売あがったりだよ。まぁ、串焼きは店でも出せるから、そこまで赤字じゃないけど。でも折角だから、食っていってよ」

「はぁ……」


 とりあえず、雨も一段落してきた。そろそろおいとまをと思うが、四人の子達に拘束されて僕は身動きできない。バスタオルはお借りしたが、服はまだ濡れている。流石に、これは兄弟達を思うと、よろしくない。


「へぇ」

「あ、何?」


 安西さんが微笑むその顔に、思わずドギマギしてしまう僕だった。一匹オオカミで、裏ではパパ活しているという噂がウソみたいだって思う。


「いや、音哉おとやこう明比あけびはともかく、めいまで懐くとはねぇ。この子、人見知り激しいのに」

「はぁ……」


 そうは言っても余所よそのお宅。このままじゃご迷惑に――そんな僕の思惑を察したのか、当の鳴ちゃんが、とつぜんグズりはじめる。


「え? え?」

「ごめん、樋ノ下。今、串焼きを焼いているから、手が離せない! なんとかあやして!」

「はぁ?!」


 そう言われても、どうしろと。僕は仕方なく、鳴ちゃんを抱っこすると――ウソのように泣き止んだ。


「へぇ……すごいじゃん。実は樋ノ下、子育て経験あり?」

「そんなワケあるか!」


 間髪入れない僕のツッコミに、安西さんが笑う。


「樋ノ下? この夏だけで良いからさ、ウチに来ない?」

「は?」


「バイトに、さ」


「僕、食堂の手伝いなんて――」

「ばーか、子守りだよ。お盆の期間はさ、保育園も児童館も休みになるじゃんか。その前から手伝ってくれたら、こっちはめちゃくちゃ助かるんだけど」


 安西さんは、そう言ってケタケタ笑った。



「そのままじゃ風邪ひくよな。折角だし、シャワーを浴びていきなよ」

「ぶひ……?」


 予想外の言葉に僕が硬直フリーズしたのは言うまでもない。











 一夏ひとなつのこい。

 僕たちはこの時、本当の意味で「こい」という字をまだ知らなかった。






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