第15話 これってキスだよね

 少し汗ばむような日差しが照り付ける五月下旬。俺は真美さんとデートするため、駅前に向かい歩いていた。


「俺が真美さんと、で、でで、デート……だと」


 店のウィンドウを覗きながら、髪型が乱れていないか、服や清潔感は大丈夫かを確認する。

 緊張感がハンパない。

 デートなるものは生まれて初めてだから。


「まさか俺が、憧れの真美さんとデートするなんて。くっ、思えば思春期に入ったばかりの小学校高学年の頃……」


 今でも思い出す。中学生になった真美さんの制服姿を。

 それまで一緒に遊んでいた幼馴染だったのに、制服姿が大人びて見えて。

 急に恥ずかしくなって直視できなくなったり。


「あれから五年か……高校の制服姿も良いよな」


 ついに俺は真美さんと初デートを。

 そこで何故か瑛理子先輩の顔が頭に浮かぶ。


『日曜日、喫茶店で一緒に執筆しましょ』


 そう言った瑛理子先輩の誘いを、俺は断ってしまった。金曜日の放課後、部室でのことだ。


 先に真美さんとデートの約束があったからしょうがないのだが。

 でも、今でも瑛理子先輩の落胆顔が脳裏に焼き付いて離れない。


「ああ、俺はどうしちゃったんだ。あんなに真美さん一筋だったのに、最近は事あるごとに瑛理子先輩を思い浮かべてしまう」


 商店街のショーウィンドーには、頭を抱えた俺が映っている。


「瑛理子先輩。あんなに地雷っぽくて難あり女子なのに、何故か放っておけない気持ちになっちゃうんだよな。俺がついていないとって……」


 この気持ちは何だ? 恋じゃない……と思う。

 でも、たまに見せる笑顔が俺の心をざわつかせる。


「だ、ダメだダメだ! 憧れの真美さんとデートなんだ。気を引き締めないと」


 頬をペチペチと叩き気合を入れる。


 相手は清純派の真美さんなんだ。決してイヤラシイ目で見ちゃダメだぞ。

 あのGカップ(推定)をガン見したりとか。

 下心が見え見えだと幻滅されちゃいそうだからな。


「よし、行くか!」


 俺は気合を入れ、真美さんとの待ち合わせ場所に向かうのだった。




「あれっ? 駅前に天使がいるぞ」


 駅の入り口付近の柱に、ひと際目立つ美少女が立っていた。清楚でありながらも、色気がハンパない女神が。

 天使なのか女神なのかどっちだよ! 両方だよ!

 清楚な白いワンピースなのに、Gカップ(推定)の胸が突き出ていて目のやり場に困る。


 まだ待ち合わせ時間まで十五分もある。

 余裕をもって来たはずなのに、まさか真美さんを待たせてしまうなんて。


「おい、あの子すっげぇ可愛くないか?」

「うおっ! めっちゃ可愛いな!」

「お前、声かけろよ」


 周囲の男たちが噂している。男の視線を一身に受け、誰もが声をかけようと牽制し合っているようだ。

 早く行かないと。


「真美さん、遅れてすみません」


 駆け足で向かうと真美さんが振り向く。

 同時に周囲の男どもからの妬みの視線も集まった。


「あっ、俊くん♡ 私も今来たとこだよ」


 真美さんは天使の笑顔で返してくれた。


「うふふっ♡ まだ待ち合わせ時間には余裕あるよ」

「でも」

「気にしないで。私が早く来ちゃっただけだから」


 真美さんが俺の横に並ぶと、肩を寄せてきた。

 少しだけ当たった肩が熱を持つ。


 ああああぁ! 真美さんの肩が!

 そんな自然に触れられると、俺の心臓が爆発しそうになるよ!


「俊くん、緊張してる?」


 真美さんが俺の顔を覗き込んできた。


「は、はい」

「ふふっ♡ 私も」

「真美さんもですか?」

「うん、楽しみで夜は寝られなかったんだ」


 嬉しい。真美さんも楽しみにしてくれてたんだ。

 何だかこうしていると相思相愛みたいだよな。

 実際は弟のように思われてるだけなんだろうけど。


「真美さん、先ずはどうしましょか?」

「そ、そうだね♡ ほ、ホテルでイチャコラとか?」

「ん?」

「えっ?」


 あれっ? 今、真美さんの口から『ホテル』って聞こえたような?

 気のせいだよな。


「あの……何て?」

「フォンダンショコラって言ったの」

「あっ、ケーキでしたか。喫茶店ですね」


 ビックリした!

 まさか清楚系の真美さんが『ホテルに行きたい』なんて言う訳ないよな。


 ああぁ、触れ合ている肩が熱い。俺が興奮してるのがバレちゃいそうだ。

 手を繋いだ方が良いのかな?

 待て待て! いきなりキモいって!

 手汗が……。


「あんっ♡ 俊くんのをフ○○しちゃったりとか?」

「ん?」

「えっ?」


 えっ! ええっ! 今、真美さんの口から卑猥な言葉が出たような?

 き、気のせいだよな。


「えっと、何て言いました?」

「あっ、フラペチーノって言ったの」

「コーヒーですね。ですよね」


 ビックリしたぁ! 俺は欲求不満なのか!?

 清純派の真美さんが卑猥な会話をする訳ないだろ!

 落ち着け、俺ぇええ!


「ご、ごめんね♡ 私、緊張しちゃって。変なこと言ってるかも」


 真美さんは、はにかんだ笑顔を浮かべる。


「とんでもない。俺も緊張してますから」

「うふふ♡ 一緒だね♡」

「そうですね」


 二人で笑い合う。

 良い感じだ。


「俊くん♡ おっぱいで癒してあげたいな」

「アップルパイも良いですよね」

「パンツは凝ったデザインだから期待してね♡」

「パンナコッタも美味しいですよね」


 よし! 良い感じに会話が続いてるぞ。

 会話のキャッチボールは基本だよな。



 駅から近い場所に真美さんオススメの喫茶店があった。ケーキの美味しいお店らしい。


 奥のテーブル席に通された俺たちは、向かい合って座る。

 真美さんが座る時に「んっ♡」っと色っぽい声を出して、ドキリとさせられてしまう。


「雰囲気の良いお店ですね」


 俺は周囲のインテリアを見回す。

 真美さんが刺激的で前を向けないから。


 胸を強調するように腕でギュッとしているので、いつもより余計にGカップ(推定)が突き出ているのだ。


「どうしたの、俊くん?」

「えっ、その……緊張で」


 胸をガン見しちゃいそうだから前を向けないんだよ。

 そんなこと言えないけど。


「い、良いよ♡ 見ても♡」

「えっ?」


 見ても良いって? 顔を見ろってことだよな?

 まさか胸を……。無い無い無い!

 清楚な真美さんがそんなはず。


 気をつけないと。ミーチューブの恋愛講座でも、『下心丸出しの男子はモテない』って言ってたしな。


「お待たせいたしました」


 助かった。ウエイトレスさんがケーキを運んできた。

 これで間が持つぞ。一歩遅かったら真美さんのGカップ(推定)をガン見するところだったぜ。


「美味しそうだね、俊くん♡」

「食べましょうか」


 真美さんのが苺ショートとフォンダンショコラにミルクティー、俺はアップルパイとパンナコッタにコーヒーだ。


「あむっ♡ ペロッ♡」


 フォークですくった生クリームを食べる真美さんが、滅茶苦茶エッチだ。

 ちちち、違う! エッチなのは俺だ。

 真美さんは普通にケーキを食べているだけなのに、俺が勝手にムラムラしちゃうなんて。


「んっ♡ あんっ♡」


 ああああぁ! やっぱりめっちゃエッチだ!

 真美さんの吐息が色っぽいんだけど!

 もうこれ完全にエッチでしょ!


「うふふっ♡ どうしたの、俊くん? 私をジッと見て」


 しまった! ガン見してたのがバレた。

 幸いにも胸じゃなく口元だったけど。


「もしかして、私のケーキも食べてみたいのかな?」


 そう言って真美さんは、ショートケーキを一欠片すくったフォークを俺に向ける。


「はい、あーん♡」


 えっ! ええっ! これって、恋人同士がする伝説の『あーん』ですよね!?

 か、かかか、間接き、きき、キス!?

 待て待て、俺が中学生みたいな考えなだけか。

 真美さんにとっては幼馴染の弟君みたいな扱いかもしれないし。


「ほら、俊くん♡ あーん」

「は、はい。あーん」


 周囲が気になるけど覚悟を決めた。

 俺は一気に行った。


「ううっ、て、照れる……」

「うふふふっ♡ 照れちゃうね」


 本当のカップルみたいになった。

 だがしかし、事はここで終わらないようだ。

 真美さんが身を乗り出してきたから。


「俊くんのも食べたいな♡ あーん」


 真美さんは可愛く口を開けた。

 これはお返しの『あーん』だ。

 こんなの恋愛上級者向けじゃねーか!


「えっ、でも……」

「あーん♡」


 ああ、もうやるしかないのか!

 俺の唾液と真美さんの唾液がミックスされるなんて、もうこれ実質キスだよな。


 俺はアップルパイをフォークで切ると、リンゴ多めのところを刺して真美さんに向けた。


「はい、あーん」

「あーん♡」


 パクっとアップルパイを口にした真美さんだけど、そのまま終わらなかった。

 真美さんの舌が俺のフォークをねぶる。


「んっ♡ ちゅ♡ ペロッ♡ ちゅぱ♡ んぁ♡」


 まままま、真美さんが俺のフォークを舐めてるのだが!? なな、何これ!?

 舌使いが滅茶苦茶エッチなのだが!?


「んふふふ♡ 美味しいね♡」

「ははは、はい」

「これって実質ファーストキスみたいだよね♡」


 真美さんが俺と同じことを考えてるだと!?


 そんな甘々全開になっている二人の空間に、思いがけない衝撃が走る。

 視界の端、ガラスの向こう。歩道を歩く長い黒髪の女子が見えたから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る