笑ってしまうのに、なぜか忘れられない逃走劇

弁護席という「どうにもならなさ」を知る視点から、人を見つめる距離感がとても巧みです。
逃走する男がどこかあっけらかんとしているのも、決して軽さのためではなく、生き延びるための姿なのだと感じました。
笑ってしまう場面がありながら、読み終えたあとに残るのは、人を裁かず甘やかしもしない静かな眼差しです。
いや、正確には、彼はすでに法廷で裁かれているのですよね。

ハードボイルドと名乗りながら、実はとても誠実な作品だと思いました。
読後、ふと日常に戻るとき、登場人物の背中がまだ視界に残っている。
そんな余韻のある一作です。

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