5 EIA(侵入者排斥組合)

 EIA (Eliminateエリミネイト Intruderイントルーダー Associationアソシエーション) ――侵入者排斥はいせき組合。


 それは近年、この世界に頻発ひんぱつする異世界からの侵入者イントルーダーを、徹底的に排除することを目的とした組織である。


 かつてのEIAは、住民に危害を加えたイントルーダーに警告を与え、あるいは衛兵へ引き渡すに留まっていた。秩序を守るための、あくまで「補助的存在」にすぎなかった。

 だが、事態は変わった。

 侵入者イントルーダーによる略奪と暴力は後を絶たない。さらに問題となったのは、彼らが一度元の世界へ戻ったのち、再びこの世界へ舞い戻ることで異形獣まものへと変貌する例が相次いだことだった。

 人のことわりを捨て、獣として人を喰らう存在――それは恐怖そのものだった。


 この脅威に対抗するため、EIAは次第に姿を変えていく。イントルーダー殲滅せんめつを掲げた、独自の準軍事組織として……。


 当初は、警備の行き届かない地域で住民の命を救うことも多かったが、近頃の彼らは明らかに一線を越えている。

 無実であろうと罪を捏造ねつぞうし、疑わしき者は排除する。イントルーダーを見つけると、たった一人に集団で暴行を加え、命を奪う事件も珍しくなくなっていた。


 ◆


 その日の早朝。外界から隔絶かくぜつされた集会堂で、白装束の者たちは意思を1つにしていた。


 天井は石造りのアーチで支えられ、左右の壁の上方に2か所ずつ、光を取り入れる直径2メートル程の天窓があった。

 正面には旗が垂れ下がり、シンボルマークが異様な雰囲気をかもし出している。

 白地の旗には円の中心へ向かって突き立てられた黒い剣が描かれていたが、EIAにとって、そのシンボルマークは決して調和の象徴ではない――円は秩序を、剣は裁きを示すのだ。


 信仰でも、祈りでもなかった。それは裁く側に立つ者だけが掲げられる印だった。


 その日、行われていた会合は、選別と排除はいじょを正当化するための沈黙の宣言だった。


 会場には百名近い白装束が整然と並んでいる。頭からすっぽりと被った三角頭巾で顔は布の奥に隠され、覗くのは2つの穴からの視線のみだ。足元まで垂れる衣により個人を示すものはすべて消え失せ、統一された意思だけがそこにあった。呼吸の音さえ揃っているかのような、不気味な一体感が場を支配していた。


 やがて演壇えんだんに立つ男が、ゆっくりと手を上げる。


 ――名はサイモン。


「異世界から来る者たちは、何をもたらした?」


 会場全体に響き渡る通る声がホールを満たす。

 一瞬の沈黙のあと、会場が応えた。


「混乱を!」

「死を!」

「奪略を!」


 言葉は波となって押し寄せ、会場の空気を震わせた。

 サイモンはゆっくりうなずき、続ける。


「彼らは法を超えことわりを超え、そして――ドナムという未知の力を我らに向ける」


 不安と憎悪で白装束の列がざわめいた。


「ならば、我々がすべきことは何だ?」


 今度は間を置かずに返答が返る。


「排除だ!」

「そうだ!」

「例外なく全てだ!」


 声は次第に1つに収束していく。演壇の横に立つもう一人の男が一歩前に出た。


あわれみは不要だ。善良なイントルーダー? そんなものは幻想だ!」


 彼の言葉に、数名が強く頷く。


「揺らぎの穴を2度通過した時点で、彼らは危険な存在となる。ならば、危険は芽のうちに刈り取る――それこそが最も合理的で、最も正しい対策なのだ!」


 ここでは疑うことすら罪となる。会場の緊張は頂点へと押し上げられていく。

 そして――。


「イントルーダーは!」


 サイモンがひときわ大きく声を上げる。


「全員――」


 百人の声が、一斉に重なった。


「――排除しなくてはならない!!」

「排除だ!」

「排除だ!」

「排除だ!」


 そろえられた唱和しょうわは足踏みと一緒に繰り返され、次第に地鳴りとなって床を震わせ天井へと反響し、そこに集った者たちの意思に共鳴した。

 その時だった。


 ――ギィ……。


 重厚な扉がゆっくりと開くと、白一色の空間に外気が流れ込んだ。異変を察した者たちが次々と顔を上げ、扉へと視線を向ける。すると、あれほど一体となっていた唱和が嘘のように途切れた。

 ……百を超える視線が一点へと集束する。


 逆光の中、そこに立っていたのは白装束ではなく、黒いブーツとギンガムチェックのスカートに身を包んだ水色の髪の少女だった。

 ジェシカは息を深く吸い、恐怖を押し殺すように拳を握りしめる。敵意がないことを表すためクロスボウを床に置き、まっすぐ前を見つめていた。


(わかってる……憎しみから生まれた体制はすぐには変えられない。でも――言わなきゃダメだ)


 あたし一人が叫んだところで――気を抜けばそんな弱音が何度も心を引き戻そうとする。だがジェシカはおびえる足で一歩、会場へ踏み出した。


「――あたしは、以前EIAの幹部の方に弓を教えてもらった、ブルタニー王国バラン村のジェシカ。今日は話があって来ました」


 震えそうになる声を、必死に抑えて口にした。

 広いホールにジェシカの声が響き渡り、白装束の海がザワッと揺れる。


「自警団……いや、護衛隊特殊部隊『青い疾風ブルーゲイル』の一員となり、イントルーダーと組んでEIAの尊厳を捨てた――裏切り者、ジェシカ」


 サイモンの敵意と拒絶が矢のようになって彼女に突き刺ささる。


「用件など聞くまでもない。我らEIAは10年前の組織とは違う。そもそもここは関係者以外立ち入り禁止だ。許可なき侵入者が命を落としても国は目をつぶるぞ。徹底的に危険分子を排する――それが、今の我々に与えられた権限だ」


 会場が緊迫感に包まれる中、サイモンは更につづける。


「我々はイントルーダー一味を決して許さない。君たち『青い疾風ブルーゲイル』がここに入国してくることはチェスキーで見た時から知っていた。理解しているかね? 君は今この瞬間、ヒース、ミツヤ、アラミスを抹殺するための餌になったのだ……!」


 それでもジェシカは、目をらさなかった。


「……それでも聞いてください。イントルーダーは――全員が悪じゃない。あなたたちだって本当は知ってるはずです」


 今、ここが彼女の戦場となった。




 ***《次回予告》***


 ヒース:なぁミッチー、アラミスは動くなって言ってっけど、お前ここで待てるか……?

 ミツヤ:…………。

 ヒース:分かってるよ。俺が勝手な行動して皆を危険にさらしたこともあったさ。昨日の店でのアラミスは正しかったし。でもジェシーが黙って居なくなるなんてこと、今まであったか? あいつ絶対何か一人で背負ってるはずだ!

 ミツヤ:ジェシーが元EIAメンバーだったの知ってるだろ? 行く先はひとつだ。

 ヒース:ミッチー!! お前――!

 ミツヤ:……はぁ……もう僕も今回ばかりは待てないよ。仕方ない、次回予告は僕が。次回第6話「まちぶせ」。お楽しみに!

 ヒース:ケ――ッ、何が仕方ねぇんだよ!!

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