青い疾風(ブルーゲイル)! ~蒼炎(そうえん)の断界編~

島村 翔

第1章 始まりの風

1 「青い疾風(ブルーゲイル)」始動!

「おい、ヒース! お前…………まさか、お前……」

「ヒース!? どうしたのその、その姿!!」

「ヒース! しゃべれるのか!? なぁ、何とか、何とか言ってくれ!」

「そんなぁ――嘘だと言って。お願い、全部……夢だと言って……!」


 仲間たちの声が、痛いほどヒースの耳に突き刺さる。

 呼びかけは次第に混乱と怒り、そして悲しみを帯びていく。


 ヒースは、ゆっくりと視線を落とし、力なくつぶやいた。


「お、俺は……ミッチーを探しに行ったんだ。だってよ、ミッチーがいねぇと俺――」


 ヒースの言葉に、仲間たちは顔をこわばらせた。


 自警団、「青い疾風ブルーゲイル」に突如とつじょ襲い掛かった最悪の事態だった。


 そして物語は3か月前へとさかのぼる――。




 ――青い疾風ブルーゲイル!――


 ~蒼炎そうえんの断界編~





 ◆


わりい! 先に行ってる!」


 馬車が街道に差しかかった瞬間、黒いコートの少年が御者台ぎょしゃだいから颯爽さっそうと飛び降りた。

 春の風がオレンジ色の髪を荒々しく乱す。腰の日本刀に手を添え、彼は仲間が返事をする暇すら与えず一直線に駆け出していた。


 4月。

 新緑に包まれた、ここはチェスキー王国――とある大陸の中部の街。

 赤い屋根が連なる町並み、街道沿いに咲く花々、陽光を浴びる石畳……。

 本来なら、旅人の疲れをいややすほど美しい季節だ。


 ――だが今、ヒースにはその景色を味わう余裕など一切なかった。1キロ程先の街で異形獣まものが暴れているのだ。




 彼の名前はヒース。(本名、日生守 剣斗ひいす けんと)この夏には17歳になる。


 1歳の時、キャンプ中の放火に巻き込まれ、異世界へつながる穴をくぐってこの世界へ辿たどり着いた。すぐにブルタニー王国の元護衛隊ごえいたい教官(じっちゃん)に引き取られ、出生すら知らないで育つ。


 銃剣所持しょじ禁止令の中、「じっちゃん」から農具で戦い方を叩き込まれたが、16歳を前にして、じっちゃんを護衛隊総隊長そうたいちょうトージに殺害されてしまう。それがヒースの人生を決定づけることになった――。


 その後、異形獣まものから国を守り、信用できない護衛隊を潰すことを誓い、出会ったミツヤとたった二人で自警団「青い疾風ブルーゲイル」を結成する。


 この自警団はその後、トージが放った600体もの異形獣まものから国を救ったことで、ブルタニー国王から護衛隊特殊とくしゅ部隊に任命された。


 チームの隊長であり、戦闘枠。


 弱点は後先考えず、すぐに突っ走るところだ。




「おいヒース! ちょ、待てよ!」


 隣に座っていた黒髪の少年も、街道沿いを走り出したその仲間へ手を伸ばす。しかし猛スピードで走っていく俊足しゅんそくのヒースに追いつくには、彼のを使うしかない。


「アイツを放っておくとロクなことない、僕が追うよ! 馬車を頼む!」


 そう言うや、彼は御者台ぎょしゃだいのステップから軽やかに地へ飛び降りると、全身が黄色い光に包まれた。


電光石火ライトニング・フラッシュ!」


 次の瞬間。


 ――シュンッ!


 彼の姿は黄色い残像だけを残して、街道の先へ弾け飛んでいた。


 彼の名前はミツヤ。(本名、久利生 閃哉くりゅう みつや)17歳。ヒースのひとつ上だ。


 高校一年の夏、公園でバレーの自主練中、雷に打たれて異世界このせかいの穴へ落ちた。

 ヒースと出会った日、ヒースとは出会いがしら大喧嘩おおげんかをしたが、気づけば誰よりも信頼する大親友マブダチだ。


 チームの仲間であり戦闘枠。


 童顔である彼の弱点は、子供扱いされると秒でブチ切れること。




「あ――あ。ヒースもミッチーも行っちまったかよ」


 と、御者台へ移動してきた金髪の青年は手綱たづなを握りながらため息をはいた。目に掛かる金髪を無造作にかき上げ、走り去る二人に半目を向ける。


 彼の名前はアラミス。(本名アラミス・コンラート)20歳。


 彼の父は護衛隊専属せんぞくのガン・スミスだった。

 だがその父をトージに殺されたことで、彼は護衛隊を憎み、ヒースが受けた入隊試験を狙撃でめちゃくちゃにした過去がある。


 ヒースとの出会いは最悪、仲も険悪。

 それでも――決して口には出さないが、互いが互いの腕を認め、どこかで信じていることを誰より本人たちが理解している。

 チームの遠距離攻撃を担う狙撃手けん、「頭脳ブレイン」。


 弱点は――無類の女好き。




「まったく。しょーがないわね、あの2人は……」


 キャビンの中で矢をそろえていた水色の瞳の少女が、クロスボウを肩にかけつつ吐き捨てるように言った。淡い水色の髪が肩で揺れ、両の眉頭がきゅっと寄る。


「事件の匂いがするたびに首突っ込んで……これじゃバチケーネにいつ着くのよ!」


 彼女の名前はジェシカ。16歳。


 ヒースの仲間であり、チームの中距離攻撃こうげき枠兼、護衛隊本部との連絡係。


 弱点……といえるものは特にないが、えて取りあげるなら素直でないことか。




 ***《次回予告》***


 ヒース:みんな! ひっさしぶり――ッ! 俺ヒース! みんな俺のこと覚えてくれてっか!?

 ミツヤ:おいヒース、勝手に飛び出すなって言ってんだろ!?

 ヒース:きたきた、その口調も久しぶりだなミッチー。けど今のセリフ、もっと後で使うヤツだろ? ここで言っちゃぁ出番なくなるぜ?

 ミツヤ:はん? 隊長だからって登場早々、調子乗り過ぎだ。それより第1期を読まれていない読者様への案内は?

 ヒース:第1期を読まなくとも楽しめるよう作者が配慮してくれているらしい。けど読んでみたい方への案内もあるぜ。


 前回の話はこちらから↓。

 https://kakuyomu.jp/works/16818093084040595774


 ミツヤ:なんだ、それを先に言えよ。じゃ、次回のタイトルコール、忘れるな!

 ヒース:へいへい。次回、第2話「白装束しろしょうぞくの影」! ミッチー、久しぶりに暴れるぜ!

 ミツヤ:お楽しみに!

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