幼馴染にプログラミングを教えていたら、コミットログに書いた気持ちをうっかり見られてしまった件

久野真一

幼馴染にプログラミングを教えていたら、コミットログに書いた気持ちをうっかり見られてしまった件

 六月中旬の土曜日。既に梅雨入りしたあとで、外はしとしとと雨が降っている。そんな中、僕は自室でパソコンに向かっていた。


 課題が溜まっているわけじゃない。趣味の個人開発に没頭していただけだ。

 ピロン、とLINEの通知音が鳴る。

 送り主の名前を見て、自然と口元が緩んでしまう。


『悠真(ゆうま)、今日空いてる?プログラミングの課題がわからなくて……』


 白石凜(しらいしりん)。

 小学校三年生の頃に隣に引っ越してきてからの幼馴染で、今は文学部の二年生だ。

 文系だけど必修のプログラミングの講義で困っているらしく、

 最近は毎週のように僕のところに助けを求めてくる。


 ちなみに僕は情報学部二年の桐生悠真(きりゅうゆうま)。

 プログラミングについては得意中の得意だ。


『いいよ。いつでも来て』


 返信を送ると、既読がついて数秒後には返事が来た。


『ありがとう!じゃあ三十分後くらいに行くね』


 凜は僕と同じ大学に通っていて、アパートも歩いて十分くらいの距離にある。

 お互いの部屋を行き来するのは、もう日常の一部になっていた。

 三十分後。

 予告通りにインターホンが鳴って、僕は玄関を開ける。


「お邪魔しまーす」


 そこにいたのは、白いブラウスにデニムのスカートという格好の凜だった。

 肩にかかるくらいの黒髪と、少し垂れ目がちな瞳。

 見慣れた顔のはずなのに、ふとした瞬間にドキッとしてしまう自分がいる。


「今日もよろしくね、悠真先生」


 茶化すように言いながら、凜は部屋に上がり込んでくる。

 勝手知ったるなんとやらで、もう完全に自分の家みたいな振る舞いだ。


「先生はやめてくれ。なんか恥ずかしい」

「えー、だって悠真に教わるの、大学の先生よりわかりやすいもん」

「そりゃ、マンツーマンで教えてるからね」


 凜はいつものように僕の部屋の椅子に座って、ノートパソコンを取り出した。

 僕は隣に自分の椅子を持ってきて、画面を覗き込む。

 ふわりと、シャンプーのいい匂いがした。


(近いな……)


 いつものことなのに、妙に意識してしまう。


「で、今日は何がわからないの?」

「えっとね、class構文がちょっとわからないの」

「確かにオブジェクト指向機能は初心者には荷が重いよね」


 僕が見る限り、文系に限らず多くの人がPythonのclass構文でつまづく印象だ。

 凜が開いた課題の画面を見ながら、僕は説明を始める。

 彼女は文系学部だけど、頭の回転は早い方で、

 一度理解すればちゃんと覚えてくれるから、教えがいはある。


「凛は既に辞書(ディクショナリ)はやったよね」

「うん。キーに対して値を結びつけるやつだよね」

「なら、話は早い。たとえば、だけどさ。住所録の名簿データを表現したいとして」

「うんうん」


people = [

 {"name": "桐生悠真", "sex": "male", "age": 20, "birthday", "2005/04/15" },

 {"name": "白石凛", "sex": "female", "age": 19, "birthday": "2005/07/10" }

]


「毎回連ねていくのはめんどくさいよね。タイポしても気づきづらいし」

「確かにそうかも?」

「そこをテンプレート化しようってのがクラス構文だね」


class Person:

 def __init__(self, name: str, sex: str, birthday: str):

  self.name = name

  self.sex = sex

  self.birthday


「あとはこれを使うとこうなる」


people = [

 Person("桐生悠真", "male", 20, "2005/04/15"),

 Person("白石凛", "female", 19, "2005/07/10")

]


「だいぶスッキリするのがわかるでしょ?あとはタイポもしづらいし」

「でも、class Personがちょっと長くない?」


 鋭い疑問。多くの初心者だと「そういうもの」として飲み込むところでも、

 凛は平然と疑問を突きつけることができるところがある。


「いい質問。実はPython 3.7以降だとdataclassesというのが使えてね」


 と言いながらタタタっとタイプする。

 その打鍵音を聞いてる間、彼女は不思議とうっとりしている事がある。


@dataclass

class Person:

 name: str

 sex: str

 birthday: str


「さっきのclass構文と同じことができる。講義だと端折っちゃうんだろうけど」

「補足までいれる辺りが悠真らしいね」

「らしい?」

「ツッコミいれたがる癖?」

「褒められてる気がしないんだけど」

「褒めてるよ。そのおかげで、昔から私はいい成績取れてるんだから」

「まあいいか。課題の疑問は大丈夫そう?」

「大丈夫。悠真のおかげだよ。ほんと、いつもありがとう」

「別にいいよ。凜に教えるの、楽しいし」


 本音だった。

 凜との時間は、僕にとっていつも特別なものだったから。


◇◇◇◇


 課題が一通り終わって、休憩がてらお茶を淹れることにした。

 キッチンでお湯を沸かしながら、リビングにいる凜に声をかける。


「紅茶でいい?」

「うん、ありがとー」


 カップを二つ用意して、紅茶を注ぐ。

 凜の分には少し砂糖を入れる。甘いのが好きだって知っているから。


「はい」

「砂糖入れてくれたんだ」

「凜、甘いの好きだしね」

「覚えててくれてありがと」


 嬉しそうに笑う凜を見て、なんだかこっちまで嬉しくなる。

 こういう些細なことを覚えているのは、長い付き合いだからこそだ。


「ねえ、悠真」

「ん?」

「私たちが出会ってから、もう十年以上だね」


 凜がふと思い出したように言った。

 小学三年生の春に凜が隣に引っ越してきて、そこからずっと一緒だ。


「そういえばそうだな。長いね」

「最初に会ったとき、悠真、すっごく人見知りだったよね」

「凜だって、おとなしかったじゃん」

「だって、転校したばかりで不安だったんだもん」


 懐かしい記憶が蘇る。

 引っ込み思案だった僕と、転校してきたばかりで友達がいなかった凜。

 気がついたら、いつも一緒にいるようになっていた。


「中学も高校も、ずっと一緒だったね」

「大学も同じところに来ちゃったしな」

「それは偶然だよ。私が文学部に行きたかっただけで」

「知ってる。文句言ってるわけじゃないよ」


 むしろ、同じ大学に来てくれて嬉しかったくらいだ。

 口には出さないけど。


「ところで。悠真のパソコン借りていい? 私のPCちょっと最近動きが遅くて」

「ああ、いいよ」


 凜のノートパソコンは少し古い型だ。

 最新のOSを動かすにはスペックが足りないのかもしれない。


 僕は自分のノートパソコンを凜の前に置いた。

 デスクトップ画面には、いくつかのフォルダとアプリケーションが並んでいる。


「ありがとう。えっと、Pythonはどこから……」

「左下のアイコンから開けるよ」

「これかな」


 凜がマウスを操作すると、Jupyter Notebookが起動する。

 Jupyter NotebookはPythonの実行環境で、セル単位での実行や読み書きができるので初心者向けの教育にも使われている。

 僕は紅茶を飲みながら、ぼんやりとその様子を見ていた。


 ——そのとき。


「あれ、このフォルダ何?」


 凜が画面の一角を指さした。


 そこには「Personal_Projects」という名前のフォルダがある。


「ああ、それは趣味で作ってるプログラムが入ってるやつ」


 個人開発でちょっとしたプログラムを作ることがあるのだ。


「へえ、見てもいい?」


 軽い気持ちで聞いてきた凜に、僕は深く考えずに頷いてしまった。


「別にいいけど、大したものじゃないよ」


 その言葉を後悔することになるとは、このとき思いもしなかった。


◇◇◇◇


 凜がフォルダを開く。

 中には、いくつかのプロジェクトが並んでいた。


「『天気予報アプリ』『家計簿ツール』……いろいろ作ってるんだね」

「暇なときにちょこちょこね」

「すごいなあ。私にはこんなの作れないよ」

「凜だって、ちゃんと勉強すればできるようになるよ」


 本音だった。今なら生成AIを使えば一瞬でできてしまうものばかり。

 ともあれ、凜がファイルを眺めているのを、僕は隣で見守っていた。

 特に見られて困るものはない——と、思っていた。


「このファイル何だろ。『rin_birthday_app』……私の名前?」


 ——しまった。

 そのプロジェクトの存在を、僕はすっかり忘れていた。

 凜の誕生日に何かサプライズをしようと思って、作りかけていたアプリだ。

 結局、コンセプトがまずかったのでお蔵入りにしたやつだ。


「あ、それは……」

「開いてみていい?」


 止める間もなく、凜はファイルをダブルクリックしていた。

 画面にコードが表示される。

 Pythonで書いた、シンプルな誕生日カウントダウンアプリ。

 凜の誕生日まで何日かを表示して、

 当日にはお祝いメッセージ自動送信してくれる。

 ただ、誕生日メッセージまで自動送信は風情がないと気づいてやめたのだ。


「私の誕生日までカウントダウンしてくれるアプリ?」

「まあ、そんな感じ」

「嬉しい。悠真、こんなの作ってくれてたんだ」


 凜が嬉しそうに笑う。


「でもさ、お祝いメッセージまで自動送信はちょっとね……」

「そんなに気にすることかな?メッセージは悠真が考えたものでしょ?」

「そりゃね。文面までAIが考えたら、人間として大事なもの失ってるし」


 ただ、同級生の話を聞くに交際相手に気の利いたメッセージを送るために既に生成AIを使っているやつもちょくちょくいる。同時に、僕自身はそこまで頼り切らないでいようと決めていた。


 ともあれ、コードには読まれて困るものはない。

 コ(・)ー(・)ド(・)には。


「コミットログ、見ていい?」

「え?」


 思わず素っ頓狂な声を出していた。


「凛はまだPython入門の段階じゃなかったっけ」

「コンピュータリテラシーの講義でgitちょっとだけやったんだ」


 それは、まずい。非常にまずい。


「特に面白いこともないよ。退屈なログが書かれてるだけ」


 必死に興味を逸らそうと「退屈」を強調してみる。


「悠真が退屈っていうときは、大体何かあるんだけどなー」


 付き合いが長いとこんなことまでバレてしまうのは困りものだ。


「とにかく、さっと見るくらいなら大丈夫」


 お願いだから、決定的な一言だけは見ないでくれよ。

 そんな内心を知ってか知らずか、git logでコミットログを読み始める凛。


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commit f0f1927bf726f67b32b5092db8b3ba18dce8c76e (HEAD -> main)

Author: Yuma Kiryu <yuma_kiryu@yuma_kiryu.net>

Date: Sun May 11 01:11:03 2025 +0900


とりあえず完成。ただ、お蔵入りにした方がいいかも。

誕生日メッセージを自動送信っていうのも風情がないし。

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「悠真真面目だよね。こんなことまでコミットコメントに……」

「まあ、コミットコメントはwhyを書くところだから」

「そういうところかわいいよね」


 クスクスと笑う幼馴染は可愛くて少し小憎たらしい。


 さらに興味が湧いたのかログをスクロールさせていく凛。


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commit f0f1927bf726f67b32b5092db8b3ba18dce8c76h (HEAD -> main)

Author: Yuma Kiryu <yuma_kiryu@yuma_kiryu.net>

Date: Sat May 10 22:00:10 2025 +0900


基本機能はほぼ完成。

といっても機能自体が限られてるけど。


凛の誕生日のためにカウントダウン+αのためだけのアプリとか。

ほんと僕は何をやってるんだろう。

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「ふーん。悠真君はちなみに何が目的で作ってたのかな?」


 何かに勘づいたらしい。からかうように言ってくる。


「ノーコメント」

「つまらないなー。じゃあ、もうちょっとログ読ませてもらうね」

「……もう好きにして」


 どこかニヤケながら僕のコミットログを読んでいるこいつ。

 もうどこかに決定的な一言が書いてあると踏んだんだろう。

 これだから幼馴染ってやつは性質が悪い。


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commit g0f1927bf726f67b32b5092db8b3ba18dce8c76x (HEAD -> main)

Author: Yuma Kiryu <yuma_kiryu@yuma_kiryu.net>

Date: Fri May 09 23:10:00 2025 +0900


カウントダウン機能は完成。

これで毎日ボットが通知してくれるようになるはず。


ほんとに、こんな回りくどいことするなら、もっとやることがあるのにって。

僕のことながら少し自己嫌悪だ。

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「ふふ。悠真君は何について回りくどいことをしてたのかな?」

「もうわかってるでしょ。そのまま読んでくれれば答えはわかるよ」

「了解。最後まで読ませてもらうね」


 楽しそうな凛とは裏腹にもう恥ずかしいなんてものじゃない。

 だいたい、公開するつもりもなかったから書いたものなのだ。


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commit h0f1927bf726f67b32b5092db8b3ba18dce8c76x (HEAD -> main)

Author: Yuma Kiryu <yuma_kiryu@yuma_kiryu.net>

Date: Thu May 08 21:30:00 2025 +0900


凛の誕生日に告白するためのアプリを開発開始。

直接告白する勇気がないから自動送信してもらいましょうとかアホにも程がある。


でも、それでも、言わないまま時間が過ぎるよりはマシか。

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 ああ。決定的なメッセージを読まれてしまった。


「うん……ありがとう。悠真。私、すっごく嬉しい」


 凛は意外にもとても優しげな微笑みで僕を見つめてきた。


「私もね。悠真のこと大好きだよ」

「うん。僕も、大好き」


 途中でニヤケていたときから、さすがに凛の気持ちには気づいていた。

 でも、やっぱり言葉にして「大好き」と言われると恥ずかしすぎる。


「……いつから?」


 凜が口を開いた。


「たぶん、高校に入ったくらいから。凜が部活でその……」

「その?」

「格好いい男子と仲良さそうに話してるの見て、モヤッとしたんだよ」

「そっかそっか」

「凛の方は?」


 一体いつからなんだろう。


「うーん。悠真ってさ、昔からコンピュータ少年だったでしょ」

「まあ、君が知っての通り」

「小学校の頃から、君がキーボードをカタカタカタってスマートに打ち込む姿が格好よくて。その頃から好きだった」


 思い出しているのか、どこかしらうっとりした様子の彼女だ。


「う、うーん。そっか。キーボードフェチ?」

「違うよう……悠真の打鍵音が格好良かったの!」

「それ、やっぱりフェチじゃん」

「他の人の打鍵音聞いてもこんな気持ちならないの。だから、フェチじゃない!」

「わかった、わかった」


 別にきっかけなんてどうでもいいことだし。


「わかってない!毎日就寝前に録音した悠真の打鍵音聞いてるくらいなのに!」

「え」


 思わぬところからの剛速球火の玉ストレート。いや、変化球か?


「個人の趣味は自由だよね。でも、安心して。それでも僕は君のことが好きだから」

「フォローになってないよー。でも、このことまでわざわざ言わなくても良かった」


 ガチで凹む幼馴染に、なだめる僕。

 こんな風景も昔からよくあることで、告白しても変わらないなあ、僕達。


◇◇◇◇


 あれから少し時間が経って、僕たちはソファに並んで座っていた。

 手と手が触れ合っている。

 それだけのことなのに、心臓がばくばくしている。


「ねえ、悠真。ずっと一緒にいようね」

「うん。僕も」

「これからはもっとこっちに遊びに来ていい?」


 凜が甘えるような声で言う。

 こういう顔を見せるのは、幼馴染として長く一緒にいて初めてかもしれない。


「もちろん。その……僕も嬉しいし」

「付き合ってしばらくしたら、悠真の家でお泊りとかも」

「う、うん。僕もそれは考えてる、よ……」


 付き合い初めなので、それを言われると嬉しいより恥ずかしいが勝ってしまう。


「ねえ、悠真。呼び方変えてもいい?」

「呼び方?」

「今まで『悠真』って呼んでたけど、『ゆうくん』とか」


 うーん。


「それはハードル高くない?」

「だって、恋人っぽい呼び方したいんだもん」

「いいけどさ。じゃあ僕は凜のことなんて呼べばいいの」

「『りんちゃん』とか?」

「わかった。すぐは慣れないだろうけど。り、りんちゃん」

「うん。ゆ、ゆうくん」


 お互い緊張してカミカミだ。

 でも、すぐにくすくすと笑い出した。


「お互い、少しずつ慣れていこうか」

「うん。そうだね」


 そう言って、凜が僕の肩にもたれかかってきた。

 柔らかい感触とシャンプーの匂い。

 心臓が跳ね上がる。


「こういうの、してみたかったんだ」

「……僕も」

「恋人同士だから、いいよね?」

「いいよ。もちろん」


 窓の外では、夕日が沈み始めていた。

 オレンジ色の光が部屋に差し込んで、凜の横顔を照らしている。

 

 きれいだな、と思った。


「ねえ、悠真」

「うん?」

「キス、してもいい?」


 心臓が止まるかと思った。


「いきなり?」

「だって、恋人になったばっかりでしょ。記念に」

「記念って……」

「嫌?」


 上目遣いで聞いてくる凜。

 嫌なわけがない。


「……いいよ」

「じゃあ、目、閉じて」


 言われるままに目を閉じる。

 緊張で心臓がばくばくしている。

 

 数秒後、柔らかい感触が唇に触れた。

 一瞬のことだった。

 でも、その一瞬が永遠のように感じられた。


「……へへ」


 目を開けると、凜が恥ずかしそうに笑っていた。

 顔が真っ赤だ。僕もきっと同じ顔をしているんだろう。


「ファーストキス、悠真にあげちゃった」

「僕もだよ」

「嘘。悠真、モテるでしょ」

「モテないよ。凜以外に興味なかったし。知ってるでしょ?」

「……それ、ずるい」


 凜がまた肩にもたれかかってくる。

 今度は、少しだけ強く。


「もう一回、していい?」

「……うん」


 今度は僕から顔を近づけた。

 ゆっくりと、丁寧に、唇を重ねる。

 さっきより少しだけ長いキス。

 離れたとき、二人とも息が上がっていた。


「……幸せ」

「僕も」

「これから、ずっと一緒にいようね」

「うん。約束する」


◇◇◇◇


 気がついたら、外はすっかり暗くなっていた。

 僕たちはソファで寄り添ったまま、だらだらと過ごしていた。

 プログラミングの課題?そんなものはとっくに忘れていた。


「そういえば」

「うん?」

「あのアプリ。動かしてみてほしい」

「誕生日のやつ?」

「せっかくだから、完成品が見たい。私の誕生日、来月だし」

「……恥ずかしいんだけど」

「いいじゃん。私のために作ってくれたんでしょ」


 凜がにこにこしながら言う。

 この笑顔に弱いんだよなあ、僕は。


「わかったよ。でも、当日のメッセージは違うのにするからね」

「えー。その時の悠真の告白が見たかったのに」

「もう終わったでしょ」

「まあ、仕方ないか。そういえば」

「まだあるの?」

「今度、私にもっとちゃんとプログラミング教えて。本格的にやりたい」

「急にどうしたの」

「だって、悠真の趣味を理解したいんだもん。恋人として」


 そう言われると、断れるわけがない。


「いいよ。一緒に勉強しよう」

「やった。じゃあ、毎日来るね」

「毎日?」

「だって、会いたいし」


 さらっととんでもないことを言う。

 でも、嬉しくないわけがない。


「僕だって会いたいよ」

「じゃあ、決まりね」


 凜が満足そうに笑う。

 その笑顔を見ていると、こっちまで幸せな気持ちになる。


「ねえ、悠真」

「うん?」

「好き」

「……僕も」


 何度言っても、照れくさい。

 でも、何度でも言いたいと思う。


「これからよろしくね、悠真」

「こちらこそ、よろしく。凜」


 六月の梅雨のある日。

 僕達はそんな風にして幼馴染から恋人へ変わったのだった。


 にしても、git logで本音がばれるとは予想外にもほどがある。

 教訓。コミットコメントにプライベートなことは書かない。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

gitのコミットログに本音を書いてしまうところから始まるお話でした。


休憩のときにでもお気軽に読んでいただければ幸いです。

気に入って頂けたら、星やレビューを頂けると嬉しいです。ではでは。

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