第12話 霊能者の九十三(つくみ)-4

 前回九十三つくみが紺の所を訪れてから半年が経った。


 また前と同じように不動産屋の斎藤さんと大家の石井さんに連絡を取って、九十三は紺の所を訪れていた。


 三人揃って部屋に上がって、今度は石井さんが部屋から持ってきたお茶を飲みながら、紺の報告を聞く。


「知人を呼んで風呂に入れる作戦の効果が少しづつ出ては来ていますが、まあそうすぐにはなんとも」


 あやかしというものは一気に成長するモノもいれば、長いことその姿のままのものもいる。こればかりは、同族が豊富にいる妖くらいしか判断材料がない。まあ、キツネや猫なんかのように同族が沢山いたとしても、個体差が広い種族なんかだと何とも言えなかったりするのだが。天狗辺りは、それほど個体差がない。あいつらは、日々の努力がそのまま結果になるような種族だ。と、紺が言った。九十三は勉強になるなと思ったけれど、多分その勉強を生かせる日も来ないだろうと思い直す。天狗の知り合いが出来る予定はない。


 一年二年で先の見通しが立てば、それは相当早熟だという判断になる。十年二十年の覚悟も必要だろう。とのことで。


 一瞬大家の石井さんはくらりと眩暈がしかかったが、なぜだかちょうどいいタイミングで、短毛黒猫の草太がその太ももに軽く手を置いた。


「にゃーぁん」

「よく分からないものですものね。時間がかかるのは致し方のない事なんでしょう」


 流れるように草太の頭を撫でて、喉を撫でて、それから抱き上げて。石井さんはしょうがないですねと笑った。


 紺と草太はこれからしばらくの間の住処を手に入れた。そのしばらくというのは彼らの感覚としてのしばらくであって、人間である他の者達との感覚とはちょっと違うのだけれど。まあ、そういうこともある。


 それから。


 九十三はやっぱり三か月に一度は紺の元を訪れた。斎藤さんはしばらくしたら――四回目あたりから同行しないようになり、石井さんはそれからさらに六回ほど参加した辺りで九十三が帰り際に声をかけるだけになってしまった。そもそもちょくちょく紺と顔を合わせていて、挨拶やら立ち話やらをしているので、部屋まで行く必要がないのだった。


 薄桃色の靄それから時間はそれなりにかかったものの少しずつ靄の色を濃くしていって、紺と意思の疎通は取れなかったけれど。意思の疎通が出来るものを紺が連れてきて、ちゃんと始末した。


 だから彼らがお暇した後は、その部屋に男性が住んでも問題はなくなったという。


 けれどそれはまたちょっと、別のお話。

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