第11話 風呂場にいる薄桃色の靄

 誰かが買ってきたいなり寿司を少し遅めの昼めし代わりに皆でつついて、お呼ばれの理由をみんなで聞く。約一名黒猫の草太に買ってきた食事とおやつを献上するのに忙しい奴がいるが、まあ話は聞いているだろうと放っておいてある。いつもの事なので。


 曰く、風呂場にいる薄桃色の靄は男が嫌いで、そのためわざわざ遠回しに手を回してこの部屋に男が住まないようにしている。


「そういうことって出来るもんなんですね」

「妹の和椛ほのかいるだろう。あいつも似たような事をやってるんだよ」

「あー……なんでしたっけ。旦那に金運授けるってそういう」

「そうそう。だから大別すると、うちの風呂場にいる奴は縁切り系になるんじゃないかな?」


 そんなところに呼ばれたのか、と、彼らは顔を見合わせる。


「いや、お前たちはここに住んでるわけじゃなし、特に何も起きないだろう。起きるとすれば俺が相手だ。俺をこの家から引っぺがせばいい」

「確かにそうですね」

「出来ないんだけどな」


 あの薄桃色の靄は、紺に勝てない。草太にも勝てない。である以上、彼等にもなにがしかの危険は多分ない。


「毎日お前らを呼ぶ、とかしない限りそっちに迷惑は掛からないと思うよ」


 桃色の靄から見て、不特定多数の男を呼べるのは、紺の強みと言っていいだろう。


「というわけでお前ら、帰る前に一人一回風呂に入ってってくれ」

「はーい」

「草太くん洗っていいですか!」

「いやじゃ」

「駄目かー」


 代わる代わる、風呂に入る前に風呂場を見に行った。浴槽の上にいるらしい、いや浴槽の中では、などとみんな首をひねるが、一般人である彼等には何も見えない。


 ただまあ彼らは全員、なにがしかの妖怪からのあれそれこれを紺に解決してもらったことがあったため、こういうことがある、ということに耐性がある。紺さんがあるっていうなら、あるんだろうな、と思っているだけでもあるが。


 とはいえ全員自宅でシャワーを浴びてきている。意味もなく風呂に入るのもねえ、と顔を見合わせるが、どうしようもない。出勤前に身だしなみを整えるために交代で入るかと、話をまとめた。

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